日本ワインを飲んだことがある人にオススメ!映画「シグネチャー」
先日、新宿駅の武蔵野館で「シグネチャー」という映画を観てきました。この映画は、シャトーメルシャンのゼネラルマネージャー、安蔵光弘さんという醸造家の、ワインづくりに懸ける半生を描いた映画。この映画の中で、安蔵光弘さんが師と仰ぐ人物が浅井昭吾さん(ペンネーム:麻井宇介さん)です。2002年に亡くなった浅井さんは、同じくシャトーメルシャンで工場長などを歴任し、ここ十数年で格段に品質が向上したと言われる日本ワインを牽引してきた「現代日本ワインの父」と呼ばれる存在です。
浅井さんの人望は厚く、若い頃から浅井さんを慕い、影響を受けた方々が大勢いらっしゃいます。2018年にマドリード国際映画祭で4冠受賞した「ウスケボーイズ」という映画では、浅井さんの元でワインづくりに奮闘し、自らを「ウスケボーイズ」と名乗る若者たちを題材にしたノンフィクション映画です。今日世界で注目される日本ワインの背景には、「ウスケボーイズ」や「シグネチャー」で描かれているように、浅井さんを師と仰ぎ日本をワインの銘醸地にするためワインづくりに人生を懸けた若者たちの、熱意と努力、諦めない継続、切磋琢磨してきた歴史があるのですね。
浅井さんの教えを受け継いで
私が山梨県や長野県のワイナリーを訪問して醸造家の方にお話を伺っていても、浅井さんの話やシャトーメルシャンの話が出てくることが多々ありました。
その度に思うのは、どの方も「日本でも世界に誇る良いワインが絶対に作れる」と信じているということ。長野県東御市にあるヴィラデストガーデンファーム&ワイナリーの醸造責任者である小西超さんは、映画「シグネチャー」の終盤、浅井さんが病気で亡くなる直前に一番近くでワインづくりを学ぶ青年として登場しています。小西さんも「浅井さんが実現したかった夢を叶えたい、日本で絶対に良いワインをつくる」と仰っていました。もちろん浅井さんはワイン醸造に関する知識と技術力が高かったのだと思いますが、それよりも、これだけ多くの若者の心に火をつけ、浅井さんご自身が亡くなった後も、その精神と想いが消えずに引き継がれているという、浅井さんの人間力に感銘を受けます。
シャトーメルシャンの姿勢が素晴らしい!
そして、ワイナリーの皆さんの浅井さんにまつわるお話を聞いていてもう1つ感じることは、浅井昭吾さんや映画「シグネチャー」のモデルとなった安蔵光弘さんが在籍するシャトーメルシャンという会社が、現在の日本ワインの品質向上に非常に大きな役割を果たしているということです。シャトーメルシャンは1877年創業の大手老舗ワインメーカーで、その品質は国内外で高く評価されています。
シャトーメルシャンについてのエピソードを1つご紹介します。シャトーメルシャンの「甲州きいろ香」というワインがあります。この商品が発表されたのは2005年。これまで甲州という日本固有のブドウ品種は、ワインにした時に「香りが乏しく個性がなく平凡」と評価され、日本の畑から姿を消そうとしていたそうです。そんな時に、メルシャンと山梨県のブドウ農家が一丸となって開発したのがこの「きいろ香」。甲州ブドウに「柑橘系のフレッシュな芳香」があることを突き止め、それをワインで表現するために研究に研究を重ねた結果のワインでした。この「きいろ香」は国内外で話題となり、発売後わずか2か月で完売。甲州ブドウのワインが躍進を遂げるきっかけとなりました。
メルシャンの凄いところは、この画期的な「きいろ香」の技術を、すぐに他ワイナリーに全て公開したことです。自社でこの技術を抱え込めば、この「きいろ香」はメルシャンの一人勝ちでしたが、自分のワイナリーだけが良くなるのではなく、”日本ワイン産業全体が”良くなっていくために、この香り成分の数値データや栽培技術をすべてオープンにしたそうです。
想いを引き継いで活躍する方とそのワイナリー
当店で取り扱わせていただいているワイナリーの中にも、麻井宇介(浅井昭吾)さんと関わりの深い醸造家の方がいらっしゃいます。
・ヴィラデストガーデンファーム&ワイナリー 醸造責任者 小西超さん
映画「シグネチャー」で浅井さんの最後の弟子として登場!
・ドメーヌコーセイ 代表 味村 興成さん
シャトーメルシャン在籍時、醸造責任者として「きいろ香」の開発に携わる!
・信州たかやまワイナリー 醸造責任者 鷹野永一さん
シャトーメルシャンで醸造などを歴任。ご結婚の仲人が麻井宇介(浅井昭吾)さん!
日本ワインは140年の歴史がある産業です。麻井宇介(浅井昭吾)さんはもちろん、それまでの多くの人々の熱意と努力の結果、今の日本ワインの姿があるのですね。ワインを表現する”テロワール”は、土壌も気候も大事ですが、「人」も非常に大きく関わっていることを改めて実感します。興味の湧いた方は、映画「シグネチャー」「ウスケボーイズ」を是非ご覧になってください。きっと日本ワインの楽しさが広がることでしょう!