今、注目の長野ワイン!千曲川ワインバレーの特徴を徹底解説
全国で一番ワイナリー数が多い都道府県は山梨県ですが、その山梨県を抜く勢いでワイナリー数が増えているのが長野県です。また、長野県はワイン用ブドウの生産量では山梨県を抜いて日本一!
長野県内には、ワイナリーが集積する地域が4つ存在し、それぞれ「千曲川(ちくまがわ)ワインバレー」「日本アルプスワインバレー」「桔梗ヶ原(ききょうがはら)ワインバレー」「天竜川ワインバレー」と呼ばれています。
今回は、その中でも最大の「千曲川ワインバレー」に焦点を当て、長野ワインが盛り上がっている背景に迫ります。
地形から見る千曲川ワインバレーの自然環境
千曲川ワインバレーは、千曲川の上流(東信州)から下流(北信州)まで、千曲川沿いにワイナリーが集積するエリアを指します。良いワインは良いブドウから、と言われる通り、ワインづくりにとって、良質なブドウを育てることは非常に重要です。千曲川ワインバレーは良質なブドウを育てるために必要な、次の3つの自然環境が揃っています。
- 降水量が少ない
- 日照時間が長い
- 昼夜の寒暖差が大きい
千曲川流域はなぜこのような自然環境になるのでしょうか?
北信~東信にかけてのこのエリアは、海から離れた内陸特有の気候(中央高地式気候)です。また、千曲川を挟んで西側は標高3,000m級の山々が連なる北アルプス(飛騨山脈)があり、東側は菅平高原の標高1,000mを越える山々が連なっています。海からの季節風によって運ばれてくる湿った空気は、これら山脈の上空で雨を降らせ、乾いた状態で千曲川流域にやってくるため、このエリアは晴れた日が多くなるのです。
実際に、千曲川沿いの上田と東京で比較してみましょう。
*気象庁HP 1991年~2020年における統計
千曲川ワインバレーが、内陸特有の気候であることに加え、盆地であることも、良質なブドウ栽培にとっての好条件となっています。千曲川流域は、周りを山に囲まれた平地(=盆地)で、千曲川ワインバレーの北信側は長野盆地、東信側は佐久盆地です。昼間は、地面からの熱で温められた空気が斜面に沿って上へ昇り、ぐるっと廻って盆地の底へ降りてくるので温かく、夜になると、斜面からの冷たい空気が溜まっていくため、気温が下がります。こうして1日の寒暖差が大きくなります。
千曲川ワインバレーにあるブドウ畑の多くは、こうした盆地から山にかけての斜面(扇状地)にあります。日当たりが良いことはもちろんですが、山から千曲川に流れて行くたくさんの小さな川の流れによって風が生まれ、湿度が下がることも、ブドウ栽培にとって好条件です。
千曲川ワインバレーの自然環境がもたらすブドウ栽培におけるメリット
では、ブドウ栽培にとって、これらの自然環境が好条件なのはなぜでしょうか。
- 降水量が少ない
水分が多すぎないので、ブドウの樹の幹や枝よりも、果実に栄養が集中し、凝縮感のある実ができます。(雨が多いと、木の樹勢が強くなり果実に栄養が行き渡りません。)また、雨が少ないためにカビが発生しにくく、病気や害虫の発生率が下がります。
- 日照時間が長い
ブドウの糖度を高めます。ブドウは大気中の二酸化炭素と土から吸い上げた水を使って光合成をして糖分を作っていくので、光合成をするために日照と温度を確保しなければいけないのです。
- 昼夜の寒暖差が大きい
少し意外ですが、ブドウも呼吸をするそうです。呼吸によって、内部に蓄えられた糖分が消費され水や二酸化炭素となって代謝され、気孔 (葉の表皮にある小さな穴)から放出されてしまいます。夜に気温が下がることでブドウの呼吸活動を抑え、糖をしっかり蓄えておくことができるのです。
↑東信エリア、千曲川右岸にあるヴィラデストワイナリーのブドウ畑。千曲川沿いの佐久盆地と、遠くに北アルプスを一望できる。
自然環境が持つ強みを活かし、ワインバレーを創出してきたのは「人」のつながり
以上のように、千曲川ワインバレーがブドウ栽培にとって好条件の自然環境であることはご理解いただけたと思います。でも、千曲川ワインバレーが盛り上がっているのは自然環境が良いからだけではありません。つくり手たちや行政、民間企業など、そこに携わる方々の想いと行動あっての成果なのです。
千曲川ワインバレー地区では、1942年に小布施ワイナリーが創業、1969年にはマンズワインが小諸ワイナリーを設立するなど、ワイン用ブドウ栽培の地としての歴史は長い千曲川流域。
2003年に長野県東御市に移住したエッセイストの玉村豊男さんが、東御市初のワイナリー、ヴィラデストガーデンファーム&ワイナリーを開設します。玉村さんが行動と発信を続けるにつれ、「農業というライフスタイルで暮らしワインづくりをしたい」と言う人が少しずつ玉村さんの元に訪れるようになります。そこで2015年、玉村さんと、ヴィラデストガーデンファーム&ワイナリー醸造責任者の小西超さんは、民間初となるワインアカデミー「千曲川ワインアカデミー」を開校します。ここでは、ブドウ栽培から醸造に加え、事業経営やマーケティングまで、ワイナリー開設に必要なノウハウを豪華講師陣が教えてくれます。現在のアカデミー生は第9期。これまでの卒業生たちは、千曲川ワインバレーで、栽培家やワイナリーとして次々と独立しています。
私が千曲川ワインバレーに行く度に感じるのは、ワイナリー皆さんの横の繋がりの強さ。プライベートで仲が良いだけではなく、イベントの開催など一丸になって長野ワインを盛り上げようという動きを強く感じます。ワインアカデミーの卒業生の中には、パン屋や宿泊施設経営をされる方もいらっしゃいます。大きな企業がドンと何かを仕掛けるのではなく、小規模なワイナリーや農家、飲食店などが、それぞれ有機的に結びつき、大きな千曲川ワインバレーを形成しています。その土地の自然環境を活かした産業で活性化し、その産業に携わる方々が誇りをもって働いている点が、日本のこれからの地域活性化のモデルとしてもとても興味深いです。
行政も立役者。ワイン特区とは?
2008年には東御市が他の市町村に先駆けてワイン特区に指定されます。ワイン特区とは、酒類製造免許を取得する条件となる最低製造数量基準(6キロリットル)が、域内の原料を使う場合、2キロリットルに引き下げられるという制度で、小規模な事業者も酒類製造免許を受けることが可能となる制度。2013年に長野県が「信州ワインバレー構想」というワイン産業振興策を発表し、2015年、それまで個別で認定を受けていたワイン特区が「千曲川ワインバレー(東地区)特区」として認定され対象地域が広がりました。千曲川ワインバレー内の各市町村では、ワイン用ブドウ農家を対象とした助成金などのサポートが充実しており、ワインアカデミーや他ワイナリーでワイン造りを学んできた方が小規模に独立していくことを後押ししています。
皆さんも、千曲川ワインバレーのお気に入りワイナリーを目指して、お気に入りワインを探しに、是非一度出かけてみてください。現地で、その地の空気を吸い、風を感じ、土に触れることで、また一段と長野ワインの魅力が伝わることと思います。
当店で扱っている千曲川ワインバレーのワイナリー
【参考資料】
* 国税庁 酒類製造業及び酒類卸売業の概況(令和3年調査分)
* 農林水産省 令和元年産特産果樹生産動態等調査
*長野地方気象台HP
* 山梨日日新聞 平成22年11月23日26面
* ワイン製造のための原料ブドウの品質 山梨大学大学院総合研究部附属ワイン科学研究センター奥田 徹
* 気象庁HP 1991年~2020年における統計