大桂(だいけい)商店のお味噌について

長野・上田の小さな味噌蔵。7代目が守る手仕事

長野県上田市。真田氏ゆかりの史跡が多く残り、山に囲まれた自然と歴史豊かなこの土地に、小さな味噌蔵
「大桂商店」はあります。

200年以上味噌を作り続けてきたこの蔵は、規模こそ大きくないものの、テレビでも何回も紹介されるなど、その道で確かな評価を得てきた「知る人ぞ知る」存在です。

現在この蔵を継ぐのは、7代目の小林大史さん。元ホテルの料理人で、おいしいもの好き。よく食べ、よく呑む、食道楽です。そして、お話していると自然とこちらも笑ってしまうような、ユーモアの持ち主でもあります。

はじめから家業を継ぐつもりだったわけではない、という小林さんですが、「継ぐ前から、うちのお味噌は
おいしいという自信があった」といいます。

フレンチ、そして和食と、厨房の最前線で経験を積んできましたが、実家からのSOSを機に、「親父の技術や
ノウハウを途切れさせるわけにいかない」と、家業を継ぐ決断をしたそうです。

高度経済成長期に周囲が次々と機械化する中、お父さんが守り続けた天然醸造の味噌づくりを受け継ぎ、
手間ひまを惜しまないこだわりの味噌を作り続けています。

ここまでやるの?大桂商店のこだわり

大桂商店には、味噌蔵には珍しい「麹室」があります。麹は、味噌の香りや旨みを左右する大事な要素。多くの味噌蔵では麹を外部から仕入れていますが、ここでは麹づくりから自分たちの手で行っているそうです。

熟成の工程にも、大桂商店ならではのこだわりがあります。速醸という1か月ほどで完成する手法が主流の中、大桂商店が貫くのは「天然醸造」。人工的な温度管理は行わず、四季の気温変化に任せて、最低でも半年寝かせます。この昔ながらのサイクルで、じっくり時間をかけて仕込むのだそうです。

「こんなに手間をかけて作っているところは他にないよ」という言葉にも納得の、そこまでやるの?というくらいの、手間と丁寧さに驚かされます。

おいしい味噌を作るために。目の当たりにした、手仕事の重み

早起きして訪れた蔵では、蒸した大豆の温度を一定に保つため、端から端まで手で触って確認する作業が行われていました。3時間おきに夜通し、それも500kg分も行うそうで、あまりの果てしなさに呆然としてしまいます。小林さんはこの作業を「泣かない赤ん坊の面倒をみるような作業」と表現します。自らは主張しない大豆と向き合い、「全部がちゃんと成長できるよう手を入れてあげる。そうしないと美味しい味噌はできない」と言います。目の前でその作業を見て、こんな大変なことを「こうした方が絶対おいしいからね」と、飄々と笑って言い切る小林さんの凄さを感じました。これだけ手間をかけている味噌は、おいしいに違いない。食べる前から期待が膨らみます。

一味違う、旨味広がる味噌

いよいよ、味見です。一口含むと、まず驚くのは塩辛さが全く気にならないこと。味噌なのに食べ続けられてしまう、不思議な感覚です。何種類か続けて試食しましたが、喉が渇くこともありません。しかし、決して薄味なわけではなく、塩味は舌に残らずすっと引き、代わりに、口の奥からつばが湧いてくるような旨味がじんわりと広がり、余韻として残ります。口にするとあらためて、ここまでの手間ひまが伝わってくるような味わいです。とはいえ、理屈抜きにシンプルにとてもおいしいのです。

「プロ」の経験と勘が生み出す味

おもしろいなと思ったのは、小林さんが「統計学的な理屈」と「動物的な勘」の両方を大事にしていると話していたことです。積み重ねられた経験や理屈をもとに計算し、最後には勘を重ねる。それがプロだ、と。「いまいちな料理でも、プロなら最善の状態に仕上げられる」という言葉は、元料理人ならではの表現だなぁと思いました。素材や条件に左右されず、美味しさを引き出す経験と勘は、料理も味噌づくりも変わらないはず。料理人としての経験や、美味しいものが好きというお人柄も、味噌作りに大きく貢献しているのだろうなと感じました。