
島の風とともに、未来を瓶に詰める
神戸と徳島のあいだ、穏やかな海に浮かぶ淡路島。その山あいの町・鳥飼に、古民家を改装したクラフト瓶詰・缶詰の製造所「よかちょろフードベース」があります。店に一歩入ると、土間の素材を活かした空間にセンスの良い什器が並び、外の田園風景とのギャップに驚かされます。片隅には、ナチュラルワインがずらりと並び、まるで都心のワインバーのような佇まい。料理人としての感性と、土地の暮らしへのリスペクトが調和した空間です。
淡路島の豊かな自然に囲まれたこの拠点で、オリーブや野菜などの地域の恵みが、手作業で丁寧に瓶詰・缶詰にされています。その背景にあるのは、角田大和さんの“料理人としての使命感”でした。

「収穫のリスク」は生産者だけのもの?
よかちょろフードベースを立ち上げた角田さんは、京都・丹波で飲食店を営んでいた元料理人。飲食業の現場で、天候不順や過剰収穫などのリスクが、常に生産者側だけに押しつけられている現実に疑問を抱いていました。「収穫物の行き先を作り、価値を下げずにすむ加工品の必要性を常に感じる日々でした」——角田さんのHPには、そんな思いが綴られています。
やがて2020年、コロナ禍をきっかけに飲食から加工へ舵を切り、淡路島に移住。地元で取れすぎた野菜や、規格外として流通に乗らない素材を丁寧に調理し、長期保存できる商品として生まれ変わらせる“加工拠点”をつくりました。山の恵みも海の恵みも手に入る鳥飼という土地は、素材の多様性に恵まれた場所。まさに「生産に向き合う拠点」としてふさわしい環境だったのです。ここで生まれる瓶詰や缶詰には、収穫の波に悩む農家に寄り添い、過剰な実りも価値ある一品として未来へつなげようとする角田さんの想いが詰まっています。
手作業の現実と、熟成の楽しみ
日本ワイン店じゃんで取り扱うのは、淡路島産の完熟オリーブの実の瓶詰。この素材は、耕作放棄地の再生を目指してオリーブを植樹している高齢の農家さんとの出会いから生まれました。「実が穫れすぎた」と相談を受けた角田さんが買い取り、瓶詰にしたものです。
華やかに見えることは少ないクラフト瓶詰づくりの現場ですが、実際はすべて手作業。素材の下処理から瓶詰、ラベル貼りに至るまで、一つひとつ人の手で仕上げていきます。大きさも形もばらばらな規格外素材は機械にかけることができず、丁寧な手仕事が必要です。その労力の結晶ともいえるオリーブの瓶詰は、熟成によって“バニラのような風味”が現れるという隠れた楽しみも秘めています。作り手の苦労と、時間が育む味わいが重なる一品です。

「よいことしてる風」で終わらせない
角田さんと話していて、特に印象に残ったのは「良いことしてる風で終わりたくない」という言葉でした。この言葉に心を動かされたのは、生産者に寄り添う姿勢を、見せかけで終わらせてはいけないと改めて思わされたからです。本当に自分たちの活動が、生産者と生活者、そして私たち自身の“Win”につながるまで考え抜いて行動を続けたい——角田さんの言葉から、そんな覚悟を自分にも問いかけられた気がしました。
本当に良い取り組みとは、生産者と生活者、どちらか一方にとってだけ都合が良いものではなく、未来へつながる橋であるべき。瓶に詰められたオリーブの実には、そんな角田さんの哲学と淡路島の自然、そして社会との関係性が凝縮されています。