山梨県
くらむぼんワイン
「クラムボンは笑ったよ」というフレーズを覚えている方も多いのではないでしょうか?このフレーズが出てくる、宮沢賢治の童話「やまなし」の世界観である「人間と自然の共存」をコンセプトとするワイナリー。自然農法でブドウを育て、野生酵母で発酵させ、日常に取り入れたい美味しいワインを作っていらっしゃいます。
「やまなし」のお話し
山梨県甲州市勝沼町。いくつものワイナリーが並ぶ通りにくらむぼんワインさんはあります。くらむぼんワインさんは、何といっても蟹や梨、魚が描かれたラベルのデザインが特徴的。まさに「ジャケ買い」で、くらむぼんワインのラベルデザインに惹かれて買ったことがある方や、飲んだことがある方が多いのではないでしょうか?宮沢賢治の童話「やまなし」に登場する生き物がラベルデザインになっている「くらむぼんシリーズ」は、地元山梨県で古くから栽培されてきた、日本固有のブドウ品種である甲州やマスカット・ベーリーAから作られたワインのシリーズです。社名も「株式会社くらむぼんワイン」。現代表の野沢たかひこさんが、童話「やまなし」で表現されている、人間と自然の共存、科学の限界、他人への思いやりに共感し、創業100周年を機に命名、社名変更しています。
ワインづくりにおけるくらむぼんワインさんの世界観も、童話「やまなし」の世界観と通ずるものがあります。2007年から自然農法に取り組み、肥料はやらず化学農薬も不使用。雑草やブドウ畑に生息する虫の力で土壌を強くし健全なブドウを育てていらっしゃいます。訪問した7月半ば、畑に足を踏み入れると、雑草と土は絨毯のようで、ふかふかした感じがしました。
くらむぼんワインさんのワインは、ブドウ果汁を発酵させる酵母も、土着の野生酵母を使っています(多くのワインは選抜した酵母を乾燥させた粉末状の酵母を使います)。自然農法に取り組み始めた当初は、ブドウが半分くらい腐ってしまうなど大変な思いをされたそうですが、「土地の風味を最大限に出したい」と語る野沢さん。フランスで学んだ自然農法をそのまま転用するのではなく、日本に、勝沼という地に本当に合った栽培方法を模索し続けてきたそうです。野沢さんはすごくもの静かで控えめな方なのですが、内に秘める想いが熱いことがお話ししているとじわじわと伝わってきました。代々受け継いできた畑で栽培方法を新しく変え、半分近くブドウを腐らせて、きっと反対する周囲の声もあったことでしょう。並大抵の根気ではないことが伺えます。
栽培醸造責任者の野沢たかひこさんは4代目。若い頃はワイナリーを継ぐつもりがなく、語学留学でフランスに渡ったそうです。ホームステイ先のプロヴァンスでは、夕方になると、家族や友人を招いて楽しい時間を過ごす習慣があり、そのテーブルのセンターにはいつも地元産の安いけど美味しいワインがあったそうです。その光景を見て、やっぱり自分もワインを作ろうと決心した野沢さんは、語学留学から、ワインづくりを学ぶ留学に変え、ブルゴーニュでワインづくりを学びます。プロヴァンスで見た、ワインが日常に根付く光景を日本でも。その想いを具現化するくらむぼんシリーズのワインは、どれもふんわりと優しく、果実のみずみずしさを感じられる味わいです。日本の日常で食べるようなお料理にそっと寄り添い、温かく包み込んでくれる優しさに溢れたワイン、日常でいつも傍にいて欲しいワインたちです。
くらむぼんワインさんの建物は国の登録有形文化財にも登録されている立派なお屋敷です。ショップ内では試飲もでき、昔ワインづくりに使われていた道具も展示されています。物静かな代表の野沢さんとは対照的に、営業担当の保坂さんという女性はとても明るく太陽のような素敵な女性です。ショップに行って、もし保坂さんがいれば、愛に溢れた言葉でワインの説明をしてくださるはずです。