
標高800m、風が育むワイン
九州の壮大な自然に囲まれた「久住(くじゅう)ワイナリー」。訪れたのは2025年1月中旬、宮崎県日南を出発し、大分県安心院(あじむ)を経由してたどり着きました。由布院を抜け、雪道を慎重に進んだ先に広がるのは、標高650〜900mの高地に広がるワイナリー。
迎えてくれたのは支配人の土持(つちもち)さん。その風貌はまるでヴィジュアル系ロックバンドのボーカルのよう。しかし、その見た目とは裏腹に、ワイン造りに向き合う姿勢は驚くほどストイック。
久住ワイナリーは、土持さんのお母様の再婚相手の方が立ち上げたワイナリー。しかも、ワイナリーがあるのは「阿蘇くじゅう国立公園」の中。国立公園内にワイナリーがある例は非常に珍しく、自然との共存が求められる環境。
この地は寒暖差が大きく、ぶどうに酸をしっかりと残すのに適した気候。しかし、その一方で台風のリスクと隣り合わせ。「台風の時期は毎年気が気でない」と語る土持さん。厳しい自然環境の中でぶどうを育てる覚悟を感じます。


クリーンな味わいを追求、厳格な選別
当日は多くのワインを試飲させていただきました。その中でも印象的だったのは、猫が描かれたラベルが特徴の「Catwalk」シリーズ。自社栽培のぶどうを使ったワインで、特にシャルドネの洗練されたエレガントな味わいが印象的でした。
また、もう少しカジュアルなシリーズとして「The Sun」や、自社畑でない契約農家さんから購入したぶどうにワインも展開しています。
久住ワイナリーでは、ぶどうの収穫時に細かくグレードを分けています。黄金色に完熟したシャルドネは「A」として「Catwalk」シリーズに使用。次に色づきが完全でないものを「B」、「C」、「D」と分類し、「B」は「The Sun」シリーズへと使われます。こ
の選果の徹底が、クリーンな味わいの秘訣。「オフフレーバーが出たら絶対に売らない」と言い切るほどの姿勢。土持さんは「365日休むことはない。自分は負けず嫌いだから」と語り、その情熱はワインのクリーンな仕上がりにも表れています。
土持ブレンドが光るロゼ、個性あふれる赤
数あるワインの中でも、特におすすめしたいのがロゼワイン。シャルドネ、ピノ・ノワール、メルロー、山ぶどうを独自にブレンドし、「自己流のロゼ」と語る土持さんのこだわりが詰まっています。キリッとした酸と甘美な余韻があり、エレガントな印象。まるで、美しい女性に寄り添うかのような繊細な味わい。
もう一つ、個性的なのが「EBONY(エボニー)」。久住の雄大な風景を想起させるような、シックなラベルデザインが印象的な一本です。
山ぶどうとメルローをブレンドし、しっかりとした酸味とスパイシーなニュアンスを併せ持つこのワインは、赤身肉のステーキと相性抜群。久住の厳しい自然を生き抜いたぶどうの力強さが、ワインにそのまま表れています。
風貌とは裏腹の情熱
クールな見た目とは裏腹に、内に秘めた情熱が熱い土持さん。ワイナリーを引き継ぐ前はデザインやアパレルの仕事に携わっていたそうですが、ワインの世界に飛び込んでからは、その負けず嫌いな性格も手伝い、品質を向上させてきました。
かつては「観光ワイナリーのイメージが強く、美味しいワインを出していなかった」と振り返りますが、今やそのクリーンでエレガントな味わいは、日本ワインのコンクールでも数々の賞を受賞するまでに。
ワイナリーを後にし、久住の寒さに震えながら、立ち寄り温泉に漬かる中、土持さんのストイックな姿勢を思い返し、「正直、自分はここまでストイックになれないな・・」と思いました。多くの方に、この努力と情熱の結晶を味わってほしいです。
