
古き良き宿場町で生まれる新たなお酒
2025年2月上旬、神奈川県相模原にある伊勢屋酒造を訪ねました。相模湖甲州街道沿いの宿場町・小原にあるこの酒造は、かつて旅籠として使われていた築100年の古民家を活用しています。
屋号に「伊勢屋」を掲げ、新たな酒造りに挑むのは、バーテンダー出身の元永さん。その土地の歴史を受け継ぎながら、新たな味わいを生み出しています。


バーテンダーから酒造りへ
伊勢屋酒造の創業者である元永さんは、渋谷の「Capl lla」で研鑽を積み、新宿「ベンフィディック」や台湾、中国の名だたるバーで経験を重ねてきました。バーテンダーとして培った調合の技術と知識を生かし、2020年に伊勢屋酒造を立ち上げ、アマーロの製造を開始しました。
バーテンダー時代のオーナーの父が持っていた古民家との出会いがきっかけとなり、相模原の地で酒造りを始めることに。
酒造りにはご家族も関わっており、自社の畑では母親と妹さんがハーブを栽培。冬の訪問時には静かな畑も、夏には青々と茂り、毎日畑に立つほどの活気にあふれるそうです。
アマーロの魅力、伊勢屋酒造のこだわり
アマーロとは、イタリア語で「苦い」を意味し、古くから薬草酒として親しまれてきたリキュール。フランスのシャルトリューズが強壮薬として知られるのに対し、アマーロは健胃薬としての役割を持っていました。
アマーロにはさまざまなタイプがありますが、広く知られているのがフェルネットスタイル。北イタリアでゲンチアナという植物を主体とし、強い苦みを特徴とするタイプです。有名メーカーでは「フェルネット・ブランカ」が代表的で、イタリア系移民が多いアルゼンチンでは、コーラ割りにして飲まれることが一般的です。
もともとは薬草酒として万能薬のような位置づけでしたが、時代とともに嗜好品化が進みました。イタリアでは食後酒として楽しまれ、日本でも1990年代からバーシーンで使われるようになりました。現在ではカクテル文化に欠かせないアイテムの一つとなっています。
伊勢屋酒造では、20〜25種類のハーブや根(ルート)を原酒に浸漬させ、糖分を加えてアマーロを製造。自社栽培のハーブを使用するほか、糖分には北海道のてんさい糖や鹿児島の黒砂糖を採用するなど、素材にも徹底的にこだわっています。そのため、どのアマーロも自然由来の優しい味わいが特徴です。

スカーレット、世界に羽ばたく「緋色」
伊勢屋酒造の代表作「SCARLET(スカーレット)」シリーズは、日本の緋色に由来する名を持つアマーロ。コチニールという貝殻虫から抽出される色素を使用し、古代から愛される鮮やかな赤を表現しています。
当店でも、甘みと苦みのバランスが絶妙なオレンジピールを主体とした「APERITIVO(アペリティーボ)」と、ニガヨモギやフェンネル、ミントを使った「MENTA AMARO(メンタ・アマーロ)」を取り扱っています。食前酒としても、食後の一杯としても楽しめる逸品。
関西弁で軽快に語る元永さんは、「100年続く酒造を目指す」と力強く語ります。すでに世界中から高い評価を得ており、酒蔵には海外向けの出荷用ダンボールがびっしり。時差を活用して海外とやり取りを続けながら、相模原の地から“ホンマモン”の酒を世界に届けています。