
雪景色の中に佇む、広島北部のワイナリー
広島県三次市にある三次ワイナリー。広島と聞くと温暖な瀬戸内の気候を思い浮かべますが、北部に位置する三次市は冬になると雪が積もる地域です。
広島駅から車で約1時間、人口約45,000人の町にあるワイナリーへと向かいました。昭和の全盛期を彷彿とさせるテーマパークのような外観、大きな看板、広々としたショップエリアにバーベキューガーデンやカフェが併設され、観光客にも親しまれています。
自社畑は4ha強、年間1,300mmもの降水量がある霧深い地域で、雨対策としてレインカットを施しながらブドウを栽培。もともと三次市はピオーネの栽培が盛んで、ワイナリー設立当初は甘口のお土産用ワインが主流でした。
そんな三次ワイナリーが本格的な高品質ワイン造りへと舵を切る転機となったのが、2013年に醸造責任者・太田さんが就任したことでした。


農家とともに歩む品質向上の道
ニュージーランドでワイン造りを学んだ太田さんが三次ワイナリーに加わったことで、大きな変革が始まりました。お土産用の甘口ワインから、本格的な高品質ワインの製造へと舵を切り、それまでの栽培方法や醸造プロセスに次々とメスを入れました。
「ワイナリーと農家の関係性を50:50にしたのが大きい」と語るのは、営業の山下さん。もともと三次ワイナリーは第三セクターとして設立され、農協や地元農家も出資していたため、農家側の意見が強い状況でした。
栽培方法の改善を進めるにあたり、太田さんは農家と何度も激論を交わし、根気強く信頼関係を築いていきました。信頼関係を築くために、収量ではなく面積で価格を決めるブドウ買い取り方式を導入したり、農家の名前を冠したワインをリリースしたりといった取り組みを行っています。
こうした施策を通じて、ワイナリーと農家が対等な立場で協力できる関係を築いていったのです。
コンクール受賞歴多数の実力派ワイン
この変革の成果はすぐに現れ、近年では三次ワイナリーのワインが国内外のコンクールで高く評価され、上位入賞の常連となりました。
2024年には、G7サミットで各国首脳へ提供されるワインとしても選ばれています。今や「地方のお土産ワイン」から「世界の実力派ワイン」へとその名を轟かせるまでになりました。
三次ワイナリーのTOMOEシリーズは、三次産ブドウ100%で造られるこだわりのワイン。三次市内に流れる3つの川の合流にちなんで名付けられました。クリアでしっかりとした味わいが特徴で、ワイン愛好家をも驚かせるクオリティ。
その中でも「シャルドネ新月」は、30年もの樹齢を持つ畑のブドウを1枝に1房のみ実らせる徹底した栽培方法を採用。樽発酵を経て造られるこの白ワインは、厚みのあるボディと上品な辛口の味わいで、TOMOEシリーズの最高峰とされています。
世界に誇れるワインを三次から
30年前に設立された第三セクターのワイナリーの中で、時代を超えて発展し続けるワイナリーは決して多くありません。
しかし三次ワイナリーは、太田さんを中心に農家とともに歩み、品質向上に取り組んだことで、国内外で評価されるまでに成長しました。広島県三次市から生まれる、世界に誇るワイン。その品質とストーリーを、ぜひ一度味わってみてください。