土と優しさの世界に浸る
山梨県山梨市の住宅街の奥にひっそりと佇む「旭洋酒有限会社」。勝沼や塩山から車でわずか15分のこの場所は、小さなショップと古き良き趣のある醸造所が迎えてくれます。
醸造所にはしっかりと手入れが行き届き、歴史を感じさせながらも、どこか新鮮さを感じる独特の雰囲気が漂います。
旭洋酒の看板商品である「ソレイユワイン」は、共同醸造所時代から続く伝統の商標。その名の通り、今もなお陽の光を思わせるような優しい味わいが楽しめます。
第二旭洋酒としての新たな歩み
もともと地元のブドウ農家たちが共同出資で運営していた旭洋酒。しかし出資農家の減少により2002年に解散が決まりました。
そのタイミングで、山梨県内の別のワイナリーで働いていた鈴木剛さんと順子さんご夫妻がこれを引き継ぎ、新たなスタートを切りました。
引き継いだ当初は手探りの連続だったといいますが、夫婦二人三脚で地道にワイナリーを整備し、20年の時を経て「第二旭洋酒」として独自の世界観を築き上げました。
醸造所内にはかつての貯蔵用コンクリートタンクを改装して3畳ほどの事務室として使用しており、アンティークな木の机や椅子、さりげなく飾られた絵などが置かれています。
この空間は、お二人のセンスと手作りの温もりを感じさせます。
また、ショップ兼事務所の中では、剪定されたブドウの枝を釉薬にして作られた陶芸家による酒器など、アーティスティックなアイテムも販売されています。
ショップや醸造所の随所に、鈴木ご夫妻が20年の歳月をかけて作り上げた美しい世界観が溢れています。
お二人の世界観で
旭洋酒の自社畑は、ワイナリーから少し車を走らせた丘の上にあります。
そこではメルローやシラーといった品種が健やかに育っています。草生栽培を取り入れたこの畑では、雑草や微生物が土壌を豊かにし、ブドウの成長を支えます。
殺虫剤や結実後の化学農薬は使わず、健全で自然な方法を貫いています。
畑には実際にモグラが遊びに来ることもあるとか。「ルージュクサカベンヌ」という赤ワインのラベルにはそのモグラが描かれています。
畑でスタッフと「マメコガネがいないねぇ」と虫について話す順子さんの姿は、まるで虫や植物たちと会話をしているようで、印象的でした。
穏やかで芯のあるワイン作り
醸造を担当するのは、夫の剛さん。優しく穏やかな人柄で、洞爺湖サミットの夕食会(2008年)にも採用されたワインを手掛ける実力者です。
それでいて、決して偉ぶらず、人に寄り添う姿勢を大切にしています。
旭洋酒のワインは、土や虫、ブドウや酵母と真摯に向き合う剛さんの哲学が反映されています。
その優しい味わいは、畑の土を感じさせつつも複雑な香りを持ち、一度飲めばもう一杯、もう一杯と進んでしまいます。
20年以上にわたり夫婦で築いてきたワイナリーの歩みが滲み出る一杯。その背景にある土と優しさの物語を感じながら、ぜひ味わってみてください。
鈴木夫妻の人柄とセンスが滲み出るワイン
醸造を担当するのは夫の剛さん。とても穏やかで優しい方です。20年もご自身のワイナリーを継続し、全国に続々と誕生しているワイナリーからしたら大先輩格。洞爺湖サミット(2008年)の夕食会にワインが採用されるなど高評価を受けているにも関わらず、偉そうなことも、人を試すようなことも全くないのです。土や虫、ブドウや酵母と向き合いながら丁寧に作られるワインは、優しくて、畑の土を感じられ、でも複雑な香りがします。ワインには人柄が出ると言いますが、まさにお二人の穏やかながら芯のある人柄と雰囲気が滲み出ています。その優しい美味しさに包まれるのが心地良く、もう一杯もう一杯と飲んでいると、気が付くと1本空いてしまっているのです。