甲州の地に息づく歴史と魅力
山梨県甲州市の塩山エリアに、ひと際大きな屋敷が立つその場所こそ、甲斐ワイナリー。
歴史ある家族経営のこのワイナリーは、築150年の母屋、江戸時代から使用されている酒蔵、そして築200年の土蔵を擁し、いずれも国登録有形文化財に指定されています。
風間家は代々、養蚕業や銀行業、さらには清酒づくりを営んできましたが、1986年からはワインづくりを新たな家業として取り入れ、今もその伝統を大切にしています。
現在、3代目となる風間聡一郎さんがそのバトンを受け継ぎ、日々ワインづくりに精を出しています。
「ゆるさ」を感じる風間聡一郎さん
由緒ある家に生まれた風間聡一郎さんですが、決して堅苦しさを感じさせません。むしろ、その温かく柔らかい人柄には、良い意味での「ゆるさ」を感じさせる魅力があります。
例えば、新宿伊勢丹でのワインイベントに出展されていた際に、「ダラダラしてますから不在だったら館内放送で呼び出してください~」と冗談交じりに返事をくれるなど、どこか気取らない雰囲気が漂っています。
聡一郎さんがつくる甲斐ワイナリーのワインも、その「ゆるさ」を感じさせ、肩の力が抜けるような心地よさがあります。
フラッグシップワインのブドウ品種は甲州とメルロー。
甲州の白ワインは甘みや旨味がほんのりと、メルローの赤ワインはまろやかで雑味の無く、どのワインも、肩の力が抜いて、際限なく飲んでしまえる美味しさです。
こだわりのワインづくりとその裏にある努力
しかし、風間さんのワインづくりは決して「ゆるい」だけではありません。
畑での作業は、非常に手間と時間をかけた細かな努力の積み重ね。
特にメルローのブドウは、収穫時期を完熟まで待つため、品質を重視して丁寧に管理されています。
話を伺うと、聡一郎さんは小粒の実を一房ずつハサミで切り落とす「摘粒」の作業を行い、ブドウが均等に日照を浴びるように形を整えながら進めているのだそうです。この作業は、一房ずつ手作業で行うため、非常に手間がかかります。
「この畑の房、全部ですか?」と聞いたところ、風間さんは「はい、全部です。しかも畑はここだけじゃないです」と答え、畑全体にわたって細かな手入れを施していることを教えてくれました。
さらに、「こんなに細かく手間をかけているから、おやじにもスタッフにも『病気だ』って言われますよ」と冗談交じりに話す風間さんですが、その言葉には、ワインの品質を最優先に考える真剣な姿勢が垣間見えます。
量よりも質を追求し、最良のブドウを育てるために尽力しているその姿勢こそが、甲斐ワイナリーのワインの美味しさを支えているのだと感じました。
伝統を守りつつ、新しい挑戦
甲斐ワイナリーは、伝統を守りながらも新たな挑戦を続けています。風間さんは、新たに土地を借りて新しい品種のブドウを試すなど、積極的にワインづくりに革新を取り入れています。
中でも、「かざまロゼ」にはメルローに加えて、イタリア品種のバルベーラが使われています。風間さんが自ら植えたバルベーラは、収穫のタイミングを見極め、納得いく品質が出来た年だけリリースされています。
これらの新たな取り組みは、甲斐ワイナリーのワインに新しい風を吹き込んでいます。
風間家の伝統と、現状に満足せずさらに挑戦し続ける姿勢が、甲斐ワイナリーのワインの背後にしっかりと根付いています。
「日本人のためにワインを作ってますよ」と語る聡一郎さんの気持ちがこもった、温かみのあるワインをぜひ堪能してほしいです!