
青い建物に広がる香りの世界
山梨県甲府市塩山にあるGEEK STILLを訪れたのは、澄み渡る青空が広がる日のことでした。勝沼インターを降り、車で15分ほど走ると、ブドウ畑や古い民家が点在するのどかな風景の中に突如として現れる青い建物。
その壁にはアートが描かれ、周囲の景観とは異なる異彩を放っていました。ここが、天然植物の香りを取り込んでクラフトジンを生み出すGEEK STILLの醸造所です。
かねてからワイナリー訪問のたびにその名を耳にし、気になっていた場所。扉を開けた瞬間、漂うボタニカルの香りに包まれ、これまでの蒸留所のイメージが一変しました。


尋常でない探究心、それが価値に
「マニアックな醸造所」——それがGEEK STILLの名前の由来です。その言葉通り、代表の岸川さんは、類まれなる探究心とこだわりでジン造りに挑んでいます。
元エンジニアの彼は、畑への憧れからブドウの苗木販売を始め、取引先のワイナリーとの交流を通じて「自分でもお酒を造ってみたら?」と勧められたことをきっかけに、クラフトジンの世界へ飛び込みました。
「俺はあまのじゃくなんで、ワインはやめました。もう皆作ってたし、そこで競争もしたくなかったですし。」そう語る岸川さんは、クラフトジンを造ると決めたその日から、約2年間、1,200種類ものボタニカルの香りを研究。その間、他社のジンを一切飲まず、自分だけの感覚を研ぎ澄ませたと言います。
現在は、そこから厳選した120種のボタニカルを使い、毎月異なる香りのジンをリリース。そのこだわりの結晶が、GEEK STILLの個性的なジンを生み出しているのです。
日本酒をベースに、唯一無二の味わい
GEEK STILLのジンのベースとなるのは、山口県の某有名酒蔵が特別に提供する日本酒。香り高くも飲みやすいその味わいは、日本酒が原酒だからこそ実現できるものです。
酒蔵の社長からは「岸川さんにしかこの日本酒は出さないから、唯一無二のジンを造ってね」と託されたそう。その言葉の通り、GEEK STILLのジンは他にはない個性を持っています。
ボタニカルには、地元・山梨県甲州市産の白樺の樹液やブドウの花、形が不揃いで市場に出せない苺などを使用。土地の恵みを活かした香りの組み合わせは、毎月異なる新作として登場します。
旬の植物を取り入れることで、香りを楽しむだけでなく、季節の移り変わりや山梨の風土を感じることができるのも魅力のひとつです。
“万能薬”で世界を変える
GEEK STILLのブランド名「AMRTA」は、サンスクリット語で「万能薬」の意味を持ちます。蒸留所を立ち上げたのは、世界が混乱したコロナ禍の最中。
「そんな時期だからこそ、人の心を癒し、楽しませる“万能薬”のような存在を創りたかった」と岸川さんは語ります。
醸造所のデザイン、ラベル、配管に至るまで、全てが彼のこだわりと哲学に基づいたもの。蒸留所の片隅にまで、その世界観が反映されていました。「誰もやらないことをとことん突き詰める」―この信念が、唯一無二のクラフトジンを生み出し続ける原動力になっています。
「日本ワイン店じゃん」では、GEEK STILLのジンを角打ちで提供しています。ここでしか味わえない香りと、岸川さんの熱意が詰まった一杯を、ぜひ体験してみてください。
