
旧保育園がワイナリーに生まれ変わる
岡山県新見市にある岡山ワインバレー。中国自動車道の東城インターを降り、棚田の広がる田園地帯を車で進むこと15分。目的地が見当たらないと思いきや、なんと通り過ぎた小さな保育園がワイナリーでした。
外観は当時のままですが、内部に足を踏み入れると、どこか“民藝”の雰囲気を感じさせる洗練されたデザイン。テーブルや棚に並ぶアイテム一つひとつから、つくり手のこだわりが伝わってきます。
このワイナリーを営むのは、神奈川県出身の野波(のなみ)さん。ワイン造りへの情熱から岡山へ移住しました。もともと農業という“ものづくり”に興味があり、IT企業で働きながら山梨や長野のワイナリーを巡り、農業研修を重ねていたそうです。
30代半ばになり、「このままでは動けなくなる」と一念発起し、土地探しをスタート。西日本に魅力を感じ、新見市哲多町を選びました。

地元の知恵を学び、テロワールを理解
山梨や長野ではなく岡山を選んだ理由を尋ねると、「山梨や長野だと(神奈川まで)帰れてしまう。退路を断つために遠くに行きたかった」と笑いながら話してくれました。
初心者だからこそ、確立されたブドウ栽培技術を学べる岡山を選んだとのこと。地元農家へのリスペクトを忘れず、行政や農家とのつながりを大切にしながら日々のワイン造りに取り組んでいます。
「地方で暮らしながら学ぶことは、“知る”のではなく“体得する”こと」と語る野波さん。例えば、自治体の側溝掃除をしていると砂鉄が出てきて、「なるほど、この土地には、たたら場が多かったのか」と地質を実感する。こうした経験を積み重ねながら、土地の特性を学び、栽培と醸造に活かしています。
自分の理想を押しつけるのではなく、環境に寄り添いながら試行錯誤を続ける野波さんの姿勢が、ワイン造りに反映されているのです。

石灰質の土壌が生むワインの個性
岡山県新見市哲多町は、石灰質の土壌が広がる地域。周囲には鍾乳洞が点在し、野波さんが管理する畑のすぐ下にも鍾乳洞があるほど。石灰岩がむき出しになったこの土地は水はけが良く、ブドウ栽培に適した環境が整っています。
さらに日照時間が長いことも、健全なブドウ栽培にとって大きな利点です。
こうした自然環境に加え、岡山ならではの生食ブドウ栽培の技術や、地元農家の協力が加わることで、ワイン造りの総合力が高いエリアとなっています。岡山ワインバレーでは、シャルドネに加え、イタリア品種のサンジョベーゼとネッビオーロを栽培。
イタリア・フィレンツェの居酒屋で偶然出会ったワインが忘れられず、「あの力強く凝縮した果実感のある赤ワインを日本でも造りたい」という思いで、この2品種を育てることを決意しました。
料理とワインが生む新たな可能性
野波さんが造るワインは、どれも果実味がしっかりと主張しながらも、キレのある味わいが特徴。特にシャルドネは力強い酸と豊かな果実味が調和し、飲む人を驚かせる美味しさ。
「料理とワインの個性がぶつかることで、新しい味わいが生まれるのが面白い」と語る野波さん。つくられるワインは単体で楽しむだけでなく、料理とのマリアージュによって新たな魅力を引き出す存在。
岡山の大地と、野波さんの柔軟な感性が生み出すワイン。その奥深い味わいを、ぜひ一度体験してみてください。