
牛に出迎えられる、那須高原の牧場
栃木県・那須高原の広大な風景の中、車で延々と高原を走り抜けた先に、堂々とした存在感を放つ今牧場が現れました。
立派で広々とした牛舎には、人懐っこい牛たちがのんびりと暮らし、見学に訪れた私たちを穏やかに出迎えてくれました。
案内してくださったのは、今牧場の今範子(いまのりこ)さん。工房や熟成庫の中は隅々まで清潔に整えられ、真っ白な作業着に身を包んだ職人たちは、気持ちよく挨拶をしてくれました。
その様子に、この牧場が長年大切にしてきた「丁寧な仕事」と「命への敬意」がにじみ出ているようでした。
チーズや牛、ヤギを語る今さんの様子はまるで我が子を紹介するかのようで、チーズに生えるカビの表情や、子ヤギのつぶらな瞳までもが愛おしそうに語られていきます。その一言一言から、今牧場のチーズがどれだけの愛情と時間をかけて生み出されているかが伝わってきました。


愛情と技が宿る、「なすの」チーズ
今牧場では、自家飼育の牛から搾ったミルクを、すぐ隣に併設されたチーズ工房でそのまま加工。搾ったばかりのフレッシュなミルクを使い、濃厚で繊細な味わいのチーズに仕上げています。まさに“搾りたて”のフレッシュさが、チーズの味を決めているのです。
特に人気の「なすの」は、酸凝固タイプのチーズ。表面は竹炭で包まれてグレーをしており、切ると真っ白でつるんと滑らかな断面が現れます。その断面の美しさを生む技術は非常に高く、熟練の手仕事のたまものです。
口に含むとミルキーで繊細な味わいが広がり、特に白ワインとの相性が抜群。コロンとした手のひらサイズで、思わず見つめてしまうような可愛らしさもあります。
今牧場のチーズは、国内外の品評会でも高い評価を受けています。ジャパンチーズアワード2022では「朝日岳」が銀賞、「那須の雪」が銀賞、「なすの」「しののめ」が銅賞を受賞。これまでにも「茶臼岳」「しののめ」「なすの」が複数回受賞しており、確かな技術と品質が認められています。
丁寧な仕事が生む、自然との調和
今牧場では、牛やヤギの健康とストレスの少ない環境を何より大切にしています。牛たちは清潔で落ち着いた牛舎で過ごし、毎日丁寧に世話をされながら穏やかに育ちます。
その健やかな命から生まれるミルクが、今牧場のチーズの土台を支えています。
「牛への愛と丁寧な仕事」——それは訪問したときに私が最も強く感じたこと。今さんのチーズに触れた瞬間、その言葉の意味がすっと腑に落ちるのです。チーズづくりのすべての工程に、自然と向き合い、命と対話する姿勢がありました。
チーズを通じて、命と向き合う
今牧場が目指すのは、「丁寧に育て、丁寧につくる」こと。その姿勢はチーズの味わいにしっかりと表れ、全国に熱心なファンを持つ理由となっています。自然や命と向き合いながら、日々の積み重ねを大切にする姿勢は、まさに日本の“ものづくり”の精神そのものです。
手にした人が思わず見つめ、口にすれば思わず微笑むような、やさしく深い味わいの今牧場のチーズ。ワインとのマリアージュでその魅力はさらに広がります。チーズを通して、命の営みと丁寧な手仕事の尊さに触れてみてください。
