
滋賀の住宅街に佇む、ミード専門醸造所
京都駅から電車で30分ほど、滋賀県の野洲駅で降り、さらにタクシーで10分ほど進んだ住宅街にAntelopeはあります。一見すると普通の建物ですが、かつてパン工場だったこの場所は、現在ミード専門の醸造所として生まれ変わりました。
入り口はショップ兼カフェとなっており、スタッフの活気が溢れる空間。ミードの可能性を探求し続ける職人たちが、試行錯誤を重ねながら新たなお酒の世界を切り拓いています。
「ミードって知っていますか?」——蜂蜜を発酵させて造る世界最古のお酒と言われるミード。しかし、日本ではまだ馴染みが薄く、造り手も少ない希少な存在です。
そのミードに人生を賭けて、日本での可能性を広げようとする若き挑戦者、谷澤さんに会うべく、興味津々で訪れました。
ミードに魅せられた挑戦者の軌跡
Antelopeの代表・谷澤さんは、もともと生ビールしか飲まなかった大学時代にクラフトビールと出会い、その多様性に衝撃を受けました。
農業経済学を専攻していたこともあり、ビール醸造の魅力にのめり込むうちに、日本語の醸造に関する資料の少なさに気付きます。そこで、自ら英語文献を読み解き、学んだ知識を日本語でブログに発信するようになりました。
そんな谷澤さんが2019年にミードと出会ったのは、浜松や掛川のクラフトビール製造会社で働いていた時のこと。「見えないところからパンチが飛んできたような衝撃だった」と語るその瞬間、飲んだミードの味わいが、クラフトビールでは決して再現できないものだと確信。
「ミードという広大な海を見つけてしまったら、もう泳がずにはいられなかった」と、谷澤さんは笑います。


農家とともに築く、新しいミードの未来
ミードの原料は蜂蜜と水と酵母。それだけでも美味しいお酒になりますが、かつて蜂蜜は非常に高価で貴族や海賊しか純粋なミードを楽しむことができませんでした。
一方、市民は入手しやすいフルーツやハーブを加え、独自の風味を生み出していました。Antelopeもその伝統を受け継ぎ、全国の農家と協力しながら多彩なクラフトミードを生み出しています。
設立から5年、いちじくや柑橘、ハーブなど、農家が丹精込めて育てた作物を使い、それぞれのミードにストーリーを持たせています。「ローカルをうたってローカルを消費するのではなく、農家さんが次の世代に繋げていけるような努力を一緒にしていきたい」と語る谷澤さん。
その言葉通り、Antelopeのミードは飲む人に生産者の想いや背景までも届ける、特別な一杯となっています。
未来へ繋がる、ミードの新しい可能性
ミードという未知のジャンルに飛び込み、たった5年で多くの人を巻き込みながら成長を続けるAntelope。その勢いはまだまだ止まりません。
日本におけるミード文化を根付かせ、誰かの心を動かす存在になりたい——その想いが、醸造所の熱気や、谷澤さんの語る言葉の一つひとつに宿っています。
これからどんな新しいミードが生まれるのか。そして、どんな新たな出会いが生まれるのか。Antelopeの挑戦は、これからも続きます。