
潮風と生きる、三陸の老舗ワイナリー
岩手県陸前高田市、広田湾を望む海沿いに佇む「神田葡萄園」は、明治38年創業の老舗ワイナリーです。もともとは初代・熊谷福松さんが、明治20年代に10本の西洋ぶどうを植えたことからその歩みが始まりました。栽培を続け、二代目とともに醸造にも取り組み始めたのが創業のきっかけ。
以来100年以上にわたり、地元に根ざしながら果実酒やジュースの製造を続けてきました。訪問時に、宿泊した宿の女将さんには、「マスカットサイダー」は地元で愛される清涼飲料水だったと聞きました。
いま、歴史あるその場所で新しい風を吹かせているのが、6代目の熊谷晃弘さんです。
遠い道のりと、忘れがたい風景
私たちが神田葡萄園を訪れたのは、2013年12月のこと。東京から新幹線で新花巻まで行き、そこから車で3時間。決して近い道のりではありませんが、ようやくたどり着いたその場所には、静かに海を見つめる畑と、レトロなラベルや先代の写真がずらっと並ぶ売店があり、すっと時間がゆるむような空気が流れていました。
2011年の東日本大震災では津波の被害を受けたものの、熊谷さんはその年のうちに営業を再開。2015年には果実酒の免許を再取得し、「リアスワイン」ブランドでワイン造りを再スタートさせました。


三陸が映る、塩味を感じるワイン
現在、園内では4haの畑でさまざまな品種のぶどうが育てられています。アルバリーニョ、ナイヤガラ、アルモノワール、リースリング・リオン、ソーヴィニヨン・ブラン、マスカット・ベーリーAなど、三陸の冷涼な気候に合ったものばかり。
とくに注目はアルバリーニョ。スペイン・リアス式海岸原産のこの品種は、三陸のリアス式海岸とも共通点が多く、土地に根づいています。
実際に、当店で飲んで頂いたお客様からは、「海に近いからこそ、ほんのり塩味を感じる」とのお声も多く、広田湾の牡蠣と合わせれば、まさに地元の風土をまるごと味わうようなペアリングが楽しめます。
熊谷さんは「ぶどう品種をも超えた三陸の土地が表せる個性のある味を出したい」と語り、「欠陥の出ないようなつくりをしたい」とも話してくれました。
次の100年へ、地元とともに歩む
かつて地元に愛された「マスカットサイダー」の製造を終え、現在はワイン造りにすべての力を注いでいる神田葡萄園。
「次の世代につなげる10年にしたい」と語る熊谷さんは、近隣でぶどう栽培をやめたリンゴ農家の畑を少しずつ引き継ぎながら、自社畑を拡大中。
ぶどう品種の個性を超えて、三陸の風土そのものを表現する味わいを目指して——100年以上続く歴史と、未来への静かな情熱。そのどちらもが、このワインには込められています。
