赤湯温泉の中心地に位置する老舗ワイナリー
赤湯温泉の中心地から歩いて数分、風情ある喫茶店のような佇まいの建物が酒井ワイナリーです。
1892年創業の老舗ワイナリーは、歴史的な重みを感じさせる場所で、初代の銅像が出迎えてくれます。
写真の銅像は、かつて町長も務めた初代がワインづくりを始めた時から今も変わらず見守り続けています。
訪れた時、寒空の下でひっそりと立ち並ぶ老舗旅館や公衆浴場の中に、ひときわ存在感を放つ酒井ワイナリーを目にして、歴史と伝統の深さを感じました。
酒井ワイナリーの5代目社長である酒井一平さんは、ワインづくりにおける新しい試みを進める人物。
ですが、その成功には妻である酒井千春さんの支えも欠かせません。千春さんは、東京でワインショップに勤務していた経験を持ち、全国のワイナリーを巡ったことがあります。
その中で、酒井ワイナリーを訪れた際、急斜面の畑に驚き、ここでのワインづくりに深い関心を持つようになったのです。
現在は、ワイナリーの運営や畑作業にも積極的に関わり、その温かみのある支援がワイナリーの成功に貢献しています。
初代の銅像は迫力十分。手広く事業を展開。
自然と共生する畑の哲学
酒井ワイナリーが位置する米沢盆地の山間、鳥上坂(とりあげざか)の名子山(なごやま)には、自然と調和しながら育てられる畑があります。
写真を見せてもらいましたが、羊たちが自由に歩き回り、ブドウの木の周りを守っている姿が印象的。
羊が畑にいることで、ブドウは自然に対して危機感を抱き、より良い実を実らせてくれるそう。
「Birdup(バーダップ)」というワイン名も、この地名に由来しています。「Bird(鳥)」と「Up(上)」を組み合わせた言葉で、鳥上坂(とりあげざか)の風景にちなんでいます。
この名前が示すように、自然との調和を大切にする酒井ワイナリーの想いが表れた名前です。
愛くるしい表情の羊は最後には美味しく焼いて、その命をいただくそうです。
初代の銅像をバックに、奥様の千春さんです。
哲学と自然が織りなす、味わいの秘密
酒井ワイナリーのワインには、他にはない独特の味わいがあります。それは、酒井一平社長が語る「無意識につくる」ことにあります。
以前は人工酵母を使用していましたが、近年では自然の力を信じ、酵母を使わずにワインを造るようになりました。
一平さんは、フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースの「野生の思考」を読んで、ワイン作りに新しい視点を取り込んでいます。
この本は、自然や文化に対する深い洞察を提供しており、一平さんがワイン作りにおいて感じる「無意識」に繋がります。
レヴィ=ストロースは、「野生の思考」の中で、人間が自然界においてどのように知識を形成し、文化を発展させるかを探求。
一平さんはその中で、赤ワインが動物の反芻に似ているということを見つけました。
反芻とは、一度飲み込んだ食べ物を再び口に戻して噛み直す行為ですが、これをワインのつくりにも同じことが言えるのではないかと思ったそうです。
この思考に触れた一平さんは、ワイン作りにおいても「無意識に」自然と向き合い、人工的な介入を最小限に抑えることの重要性を感じるようになったのです。
世界に誇れるワインの南陽へ
酒井ワイナリーは、南陽の地を未来に向けて世界に誇れる産地へと育て上げようとしています。
地元の耕作放棄地を受け入れ、7.5~8haの畑を耕し、更に広い土地でブドウ栽培に挑戦を続けています。
気候が寒暖差を生み、ブドウに最適な環境を提供するこの地で、酒井さん夫妻は向こう100年にわたる挑戦を続けています。
自然と共生しながら作り続けるワインには、未来への希望が込められています。