こころみ学園と共に歩むストーリー
栃木県足利市の美しい田園風景に佇むココファームワイナリー。その入口でまず目に飛び込んでくるのは、こころみ学園の宿舎、そしてその先には、急な斜面に広がるブドウ畑とおしゃれ雰囲気のワイナリーショップとカフェが迎えてくれます。
初めて訪れた時、爽やかな風が吹き抜ける中、園生たちが手作業で畑を整えている様子が印象的でした。
ココファームさんと招いたイベントの下打ち合わせなどで足を運ぶたびに、この場所が多くの人々の手で育まれた特別な場所であることを実感します。
中学教諭の夢から始まったブドウ畑
ココファームワイナリーの歴史は、1950年代に川田昇氏が中学校の教員として、知的障害を持つ中学生たちと共に開墾したブドウ畑から始まります。
その活動が地域や全国に広がり、仲間が増え、やがて「こころみ学園」として形を成しました。園生たちは閉ざされた環境から解放され、自立を目指して畑で活動するようになりました。
1969年からスタートしたワインづくりは、今や園生たちの日々の営みと共に50年以上の歴史を刻み、現在も学園の象徴として引き継がれています。
ブドウと野生酵母が奏でるハーモニー
ココファームのワインづくりは、ブドウの自然な声に耳を傾けることから始まります。ここでは人工的な酵母は使わず、ブドウに付着した野生酵母が発酵を導きます。
訪れた際、ちょうど収穫期で、タンクの中でブドウ果汁がぷつぷつと発酵する様子を目の当たりにしました。その生き生きとした発酵の音に、「おぉブドウが生きている!」と感動した瞬間を今でも覚えています。
これがまさに、ブドウの声に耳を澄ますというココファームの哲学そのものだと感じました。
この丁寧な自然発酵の工程が、ココファームならではの奥行きと優しさを兼ね備えた味わいを生み出しているのです。
また、栃木県の自社畑に加え、北海道や山形、長野、山梨など、日本各地の契約農家が育てたブドウも使い、地域を越えた協力が一本のワインに凝縮されています。
未来へ続く園生とワインの物語
現在、ココファームでは年間25万本ものワインが生産されています。その品質を支えているのが、園生たちの丁寧な作業です。
「自然に近い方法でつくりながら、たくさんのワインを一定の品質で生産することができる、このバランスの鍵は、多くの園生たちの営みがこの地に定着していることにある」と、営業の山崎さんは語ります。
「知的障害者が作ったものだからと、同情で買ってもらうワインはつくらない」という信念のもと、収穫や瓶の回転作業(ルミアージュ)など、多くの手間が惜しみなく注がれています。
さらに、卒業生たちが全国で新たなワイナリーを創るなど、ココファームは日本ワイン業界を牽引する存在として成長を続けています。
「消えて無くなるものに渾身の力を注げ」という川田園長の言葉が、この場所の哲学を物語っています。