山間に佇む歴史と風土のワイナリー
長野県塩尻市から伊那方面へ南下すること約20分。山間の長閑な景色の中に位置する「いにしぇの里葡萄酒」は、訪れるだけで特別な気持ちになるような場所です。
標高800~850mに広がる「北小野」地区は、桔梗ガ原とはまた異なる冷涼な気候で、夏でも湿気が少なく爽やかな空気が漂っています。
この地を訪れた7月の盛夏、涼しい風と鳥の声に包まれる中、ワイナリーの敷地に足を踏み入れると、どこか懐かしくも新しい風景が広がっていました。
案内をしてくださったのは、ワイナリー創業者の稲垣さん。元シェフらしい繊細な話しぶりと温かな笑顔が印象的でした。
「オールドルーキー」が挑む新たな一歩
いにしぇの里葡萄酒を創業した稲垣さんは、かつて都内の飲食店で料理長を務め、後に塩尻で飲食店を経営されていた方です。そんな稲垣さんが「塩尻ワイン大学」で学び、ワイン作りを一から始めたのは40歳手前。
自らを「オールドルーキー」と称するその挑戦は、最初のリリースである「オールドルーキー」というワインにもそのまま反映されています。稲垣さんのブドウ栽培とワイン作りには、元シェフならではの視点が生かされています。
例えば、畑作業では一粒一粒のブドウを丁寧に手入れし、自然な味わいを最大限に引き出す努力を重ねています。北小野地区特有の高低差や冷涼な気候を活かした栽培方法が、個性的で奥行きのあるワインの味わいにつながっています。
元シェフの感性が織りなす特別な一杯
いにしぇの里葡萄酒のワインは、稲垣さんの繊細な感覚と経験が余すところなく生かされています。初めて手に取ったのは「遅桜」という都内のワインショップで購入したマスカット・ベーリーAを使った赤ワインでした。
その味わいは予想を大きく超える深みとしっかりとしたボディを備えており、驚きと感動を覚えました。その秘密は、信州の気候と土壌。
稲垣さん曰く「信州のマスカット・ベーリーAは高低差がある環境で育つため、山梨のものとはまた違った個性がある」とのこと。さらに、シャルドネを使ったオレンジワインは、果実味と旨味、そして渋みが見事に調和し、食事との相性が抜群です。
一緒に味わったフランス人の親子も絶賛するほどの完成度。食卓を豊かに彩る特別な一杯に仕上がっています。
いにしぇの里葡萄酒が見据える未来
ワイナリーの名前には、「古(いにしえ)」という稲垣さんの旧姓と、フランス語で始まりを意味する「initie(イニシェ)」が組み合わされています。さらに、この地が清少納言ゆかりの「憑(たのめ)の里」と呼ばれていた歴史にも敬意を表しています。
「古(いにしえ)から未来へ、人々が脈々と受け継ぐ文化と新しい挑戦が共存する場所を作りたい」という思いが込められているのです。
稲垣さんは現在、地域交流の場として貸し出している古民家を改装し、オーベルジュ(宿泊施設)を開業する計画を進めています。
ワインと料理を心ゆくまで楽しみ、その地に宿泊できる場所を目指して。「いにしぇの里葡萄酒」が作り出す未来は、地域と人々をつなぐ新たな架け橋となることでしょう。
鎌倉の当店が開店した当初にも駆けつけていただきました。5月にも関わらず遅霜が降りて大変な時期にも関わらず、「必ず鎌倉には一度はいきます」という約束を果たしていただいて、本当に誠実な方だと改めて身にしてみて感じました。