長野県
いにしぇの里葡萄酒
東京でシェフをされていた稲垣さんが地元にUターンしブドウから育ててつくっているワイン。確かな舌とセンスで毎年リリース直後に完売の人気ワイナリーです。
古(いにしえ)の里から百年先の未来へ
長野県塩尻市内から、伊那方面に向かって南下し、山道を車で走ること約20分。山間の長閑な場所に佇むワイナリー「いにしぇの里葡萄酒」。大手ワイナリーのメルシャン、サントリーが世界に羽ばたかせた偉大なブドウ産地で、標高が200~600m「桔梗ガ原」地区と比べると、さらに標高が高く、標高約800~850mとなる「北小野」地区。7月も終わりに近づく夏真っ盛りの時期に訪問しましたが、肌にまとわりつくような湿気を感じず、心地よく時間を過ごすことができました。
活躍が楽しみ即戦力オールドルーキー
いにしぇの里葡萄酒は、元々は都内の飲食店で料理長まで経験されたのち、塩尻で飲食店を経営されていた稲垣さんが「塩尻ワイン大学」でワインの醸造、ワイナリーの経営を勉強され、2017年に実家の敷地で設立されています。ワイナリーを設立した当時、稲垣さんは39歳。40歳目前にワインづくりに一から挑戦するご自身のことを、「オールドルーキー」と称しています。最初にリリースしたワインに付けられた名前も「オールドルーキー」。オーナーシェフとして飲食店を経営されている時に、塩尻市のご実家から車で15分ぐらいの場所にある、「Kidoワイナリー」のワインを飲んで衝撃を受けて、ワインつくりを目指そうと決意されたそうです。奥様と二人三脚で、畑でのブドウ栽培、ワインづくりに取り組まれている稲垣さんですが、武骨なラガーマン然とする風貌からは想像出来ないような、とても温和な話口で、ワイナリーと畑を案内いただきました。
元シェフの舌と感覚で仕上げるワイン
最初に、いにしぇの里葡萄酒のワインに出会った時には、正直、あまり期待していませんでした。本当に申し訳ございません、稲垣さん。東京都内のワインショップ「遅桜」で入手したのは、マスカット・ベーリーAで作られた赤。マスカット・ベーリーAであれば、これまで山梨で美味しいワインにたくさん出会ってきたので、あまり期待せずに飲んでみたところ、こんなにもボディがしっかりして、深いものかと驚きました。畑に案内していただきながら、その点を稲垣さんに伺ったところ、「信州のマスカット・ベーリーAは高低差がある環境で育つから、山梨のそれとは異なるかもしれません」の回答。その後も、自宅で、シャルドネで作ったオレンジワインをいただいた時に、果実味、旨味、渋みがバランスよくまとまっており、一緒に食事をしていたフランス人の親子も大絶賛。さすがは元シェフ。繊細な舌と感覚で、確実に美味しいワインをつくられています。
いにしぇの里葡萄酒が見据える未来
いにしぇの里葡萄酒というワイナリー名は少し変わっていると思いませんでしたか。名前の由来は、稲垣さんの旧姓である古田さんから「古(いにしえ)」と、フランス語で始まりを意味する「initie(イニシェ)」。北小野地区は、清少納言ゆかりの里として、「憑(ための)の里」と呼ばれていたそうです。「古(いにしえ)から人々が住み、歴史、伝統、文化が脈々と受け継がれてきた「たのめの里」。この地に新しく、ブドウづくり、気候風土(テロワール)を反映するワインが根付き、後々の世まで栄えて欲しい。」という想いで、ワインをつくる稲垣さん。
今後は、現在、地域の交流スペースとして貸し出している古民家を改装して、オーベルジュも始めて、「北小野」を人が集まる場所としたいと語っておられ、今後、ワインと料理を楽しんで、宿泊できる場所が出来ることが楽しみでなりません。