長野県
ミリ・ボーテ
山々の間を縫うように流れぬける千曲川が造り上げる自然の美しさ、この地域の数多の美しさを、ワインを通じて表現したい。その思いでMille(千)beaute(美しさ)と名付けたそうです。
静かで、風が爽やかな畑の空間
長野県小諸市にあるミリ・ボーテ。小諸市は、上田市を中心とした長野県東部のエリア「東信地区」にあり、軽井沢の西側、上田市や東御市の東側に位置する小ぢんまりとした町です。浅間山のふもとの自然豊かな町。ミリ・ボーテのショップと畑は、千曲川沿いの通りから山側へ5分ほど登って行った菱野地区にあります。
私たちが伺ったのは2023年7月末、良く晴れた暑い日でした。到着してまず、ミリ・ボーテの中根さんに、軽トラの荷台に乗せて頂きショップからすぐの畑へ。細い農道を入って行くと、突然視界が開け、ブドウ畑が広がります。街を見下ろす高台にある畑からは、遠くに八ヶ岳が見え、背後には火山灰が積もる山肌が確認できるほどの距離に浅間山が迫っています。
広さは1ha弱。このブドウ畑の空間だけ、俗世間から隔離されたような静かさです。時折吹き抜ける風でブドウの葉が気持ちよさそうに揺れていました。
元高校の数学教諭、天気良く、眺め良く、爽やかな場所を求めて
中根さんが手掛けるのはカベルネフラン、メルロー、シャルドネ、ソーヴィニヨンブランという品種のブドウ。除草剤を使わず、できるだけ自然な形で、この土地の美しさをワインで表現したい。山々の間を縫うように流れぬける千曲川が造り上げる自然の美しさ、この地域の数多の美しさを、ワインを通じて表現したい。その思いでMille(千)beaute(美しさ)と名付けたそうです。
周りの山や地形の事、ブドウが育つ過程をとても分かりやすく説明してくれる中根さん。前職が数学の高校教諭だと聞いて、その語り口が腑に落ちました。
埼玉県で高校教諭をしていた中根さんは、埼玉県川越市にお住まいでしたが、住み始めた当初より周りに家が多くなり息苦しくなってきたので、天気が良く眺めの良い爽やかな場所に移りたいと2012年に小諸市に移住されました。そこから3年間は新幹線で埼玉県の高校まで通勤していたそうです。
新規就農者の先輩として静かに小諸市を支える
ワインづくりに触れるきっかけは、奥様がエッセイストの玉村豊男さんのファンだったこと。玉村さんの本を片手に、地図を見ながらまだ玉村さんがヴィラデストガーデンファーム&ワイナリーを設立する前の場所を見に行ったそうです。ヴィラデストワイナリーさんの最初の苗木会員にもなったという中根さん。玉村さんが立ち上げたワインづくりを総合的に学ぶ学校「千曲川ワインアカデミー」に入るのは自然な流れだったのでしょう。千曲川ワインアカデミーの第一期生として2015年に卒業。荒れ果てた耕作放棄地を借り、農地に整備して2016年にブドウを植えたそうです。
近年ワイン産地として注目される小諸市は、つくり手同士の横のつながりも強いことを訪問するたびに感じます。中根さんは同じく千曲川ワインアカデミーの卒業生の方と一緒に、「小諸ワイングロワーズ」の副会長も務めていらっしゃるそうです。生徒たちを見守ってきたように、新規で就農する方から頼られる存在なのだろうと想像できました。
単一品種でつくる美しいワインたち
中根さんのワインは2023年で6ヴィンテージ目。それぞれの品種特性や土地によるブドウの個性を最大限に引き出すため、複数品種のブレンドはせず、単一品種で仕込みます。委託醸造先は、ミリ・ボーテさんの畑から車で10分の場所にあるテールドシエル。
どのワインも、標高高く冷涼な場所ならでは、熟しながらも酸の綺麗な味わいです。中根さん曰く、フラグシップはカベルネフラン。収穫時期を出来るだけ引っ張って熟すのを待つことで、青っぽさの無い完熟した旨味と酸味によるキレを両立させているそうです。
私たちが初めてミリ・ボーテのワインを飲んだのは「シャルドネバリック」という白ワインでした。ハチミツのようなとろりとしたコクがあり、その中に酸味によるキレがある、美味しくてびっくりしたのを覚えています。
ミリ・ボーテさんのワインラベルに描かれるのは、中根さんが飼っているわんちゃんの絵。畑から車で1時間以内の場所に山はもちろん湿原や池など、わんちゃんとの散歩コースが沢山あるそうです。千曲川とその支流で形成される自然の美しさを日々感じる中根さんが送り出してくれるワインを、是非。