
北海道・白糠の恵みをチーズに込めて
北海道・白糠町にある「白糠酪恵舎(しろぬからくけいしゃ)」を訪れたのは、2014年12月のこと。帯広から車で1時間半、釧路にもほど近いこの町は、冬の北海道らしく厳しい寒さに包まれながらも、私が訪れた日は意外にも雪が少なく、穏やかな雰囲気が漂っていました。
出迎えてくださったのは、代表の井ノ口さんと営業の佐々木さん。お二人もタイプは違えど、少し迫力のある感じのオジさま、ピリッとした緊張感がある感じです。


イタリア仕込みの技と哲学
井ノ口さんは、イタリア・ピエモンテ州のサルッツォという山間の村でチーズ作りを学びました。
偶然にも、その時期に同じ場所で修業していたのが、鎌倉のイタリア料理店「コモバール」のオーナー。そして、鎌倉の「Latteria BeBè」のオーナーの山崎さんもかつて、井ノ口さんのもとに修行に訪れており、何かと鎌倉にはご縁があるようでした。
「酪農家から受け取るミルクの本質である美味しさ、やさしさ、そして力強さをそのままチーズに映すこと」と語ります。それが井ノ口さんの信念。
特に“やさしさ”とは、乳糖が持つほんのりとした甘みのことで、「口に入れて、すーっと消えていくようなチーズ」が理想なのだとか。彼はコンクールで名声を得ることには興味がなく、ひたすらに良質なミルクと向き合い、シンプルで滋味深いチーズを作り続けています。
ミルクの風味を最大限に活かす
白糠酪恵舎では、毎朝3キロ離れた牧場に自ら足を運び、新鮮な生乳を受け取ります。運搬の際、ミルクを揺らさず、できるだけ静かに運ぶことがチーズ作りの第一歩。
特に冬の朝は真っ暗な中での作業ですが、澄んだ空気の中で感じる季節の移ろいが、この地でのチーズ作りの醍醐味でもあります。また、手に取りやすい価格で提供するために、一切の無駄を省き、生産の効率化にもこだわっています。
そんな井ノ口さんが作るチーズは、イタリアらしくミルクの風味がしっかりと感じられるのが特徴。
例えば「リコッタ・サラータ」は、フレッシュチーズのリコッタを塩漬けし、1ヶ月以上熟成させたもの。そのままだと塩味が強めですが、料理に“ミルキーな塩”として活用すると、素材の味を引き立ててくれます。
白糠酪恵舎が地元イベントに出店する際には、お豆にすりおろして振りかけることもあるそうです。これをヒントに、日本ワイン店じゃんの角打ちでは、マッシュルームの薄切りにオリーブオイルと柚子胡椒を絡めた上に、たっぷりとリコッタ・サラータを削って提供。ワインとの相性も抜群。
熟成が生む、奥深い味わい
個人的におすすめしたいのは、「ロビオーラ」というチーズ。イタリア語で「赤くなる」を意味する「ロビオーリ」に由来するこのチーズは、熟成が進むにつれて表面が赤みを帯びていきます。塩水で2日おきに表面を洗いながら熟成させることで、リネンス菌による独特の香りと、むっちりとした食感が生まれます。
塩気もしっかりと効いており、旨味のピークは短いものの、その奥深い味わいが魅力。ワインはもちろん、日本酒との相性も抜群です。
また、イタリアの伝統チーズ「プロボローネ」もぜひ試してほしい一品。「チーズステーキ」として食べるのが定番ですが、焼き加減が難しく、どう角打ちで提供するか試行錯誤中。
チーズの持つポテンシャルを最大限に引き出す方法を探るのも、井ノ口さんのチーズ作りの醍醐味。
白糠酪恵舎のチーズは、ただ単に「美味しい」だけではなく、北海道・白糠という土地の風土、職人の哲学、そしてイタリアで培われた技術が融合した逸品。とにかく、まずは味わってみてほしいです。