
北の大地に根付く、足寄のチーズ工房
北海道・帯広から車で1時間ほど走ると、足寄湖の湖畔にひっそりと佇む「あしょろチーズ工房」が現れます。
12月中旬に訪れた際、雪はまだそれほど積もっていませんでしたが、冬は気温が-20℃にもなる厳しい土地。足寄町は十勝地方の東北部に位置し、どこか昭和の面影を残す工房の建物が印象的でした。

カチョカバロとの出会いが運命を決めた
迎えてくれたのは、佐々木千代さん。営業や経理を担う千代さんと、製造を一手に引き受ける一憲さんの二人三脚で工房を営んでいます。
もともと函館出身の一憲さんは、さまざまな職を経験したのち、20代半ばで運命的にカチョカバロと出会いました。その魅力に惹かれ、チーズ作りを志すように。ご縁があって「花畑牧場」の田中義剛さんにその思いを伝え、チーズづくりが始まります。
やがて「共働学舎新得農場」で製造責任者と務めており、「花畑牧場」に技術指導に来ていた鈴永寛さんに師事。チーズづくりの技術を磨いたのち、2022年に12月に、「合同会社あしょろチーズ工房」を設立しました。
あしょろチーズ工房の歴史は古く、1980年代にまで遡ります。もともとJAが主体となり、時代の変遷とともに第三セクターへ移行しながら続いてきました。しかし、2022年にJAが手を引くことを決定的となり、そこで佐々木夫妻がこの歴史ある工房を引き継ぎ、新たな挑戦を始めたのです。

酪農家の想いをのせたチーズ
当店とあしょろチーズ工房との出会いは本当に偶然でした。当店で広報・経理スタッフが東京で見つけた熟成モッツァレラ「ころ」。ホタテの貝柱のような可愛らしいシルエット、濃厚な味わい、絶妙な塩加減。そのおいしさに感動し、東京ドームのチーズイベントで千代さんと出会った際、すぐに取引を打診。
一憲さんは「都会のチーズはフレッシュが主流かもしれないが、足寄のような田舎では熟成チーズが合う」と考え、酪農家が育てた放牧牛の生乳を活かしたチーズ作りを大切にしています。
「牛乳をそのままの形で凝縮したチーズを届けたい」という思いが込められた「ころ」は、大人のお酒のお供にも、子どものおやつにもぴったり。
そんな酪農家の想いをのせた「ころ」は、外はしっかりとした食感ながら、噛むたびに濃厚な味わいが広がります。「都会で作るチーズはフレッシュなものがよいかもしれないが、足寄のような田舎の土地では、じっくりと熟成させたチーズがよい」と一憲さんは語ります。
足寄をチーズの町に、挑戦は続く
「足寄の名をチーズで全国に広めたい」と語る一憲さん。師匠・鈴永さんからは、チーズ作りの技術だけでなく、生きていくうえで必要なる様々な考え方を学んだと言います。
「苦手を克服するのではなく、得意を伸ばすことが大事」という教えを受けました。その言葉を胸に、足寄の想いをのせたチーズを作り続けています。
「得意を伸ばすことで、チーズ作りの新しい可能性を広げたい」――そう語る佐々木夫妻の挑戦は、これからも続きます。
足寄という町を、日本中に知られる“チーズの町”へと育てるために、職人としての誇りを胸に日々励んでいます。
