大阪と奈良の県境にある柏原市
蒸し暑い7月のある日、関西国際空港から車を走らせること約1時間。大阪府の東部、奈良県との県境に位置する柏原市(カシハラ)に足を運びました。
町の中心からさらに狭い道を進むと、堅下(カタシモ)と呼ばれる地区に到着。歴史ある街並みと手入れの行き届いた緑に囲まれたカタシモワイナリーが迎えてくれました。
入り口の門構えは重厚感がありつつも温かみを感じさせ、訪れる者を安心させる不思議な空気を醸し出しています。
伝統と挑戦を織り交ぜたぶどう栽培
案内をしてくれたのは、ワイナリー営業を担当するドイツ出身のレオナルドさん。
彼に連れられて訪れた畑には、日本の伝統的なデラウェアだけでなく、「ポンタ」という聞きなれない品種や、欧州系のぶどうが試験的に植えられていました。
温暖化への対応として、新しい品種を試験栽培することで、病気への耐性を高め、品質を維持しつつ収量を確保するという革新的な取り組みが行われています。
また、ワイナリー周辺には1300年の歴史を持つ井戸や、ぶどうの彫刻が残る400年前に創建された寺院が点在し、この土地が古くからぶどう栽培と深く結びついていることを実感しました。
"たこシャン"に表れる関西らしさ
ワイナリーの醸造所で迎えてくれたのは5代目後継者の高井麻記子さん。彼女は、関西らしいチャキチャキとした明るさと軽快な話しぶりで、カタシモワイナリーの歴史や挑戦について熱く語ってくれました。
「昔は、この辺りは家の屋根にでもぶどうを育ててたんやで」、「ワインがダメなときは、ひやしあめ(麦芽水飴をお湯で溶いて生姜のしぼり汁を加えたシロップ状の飲料)が支えてくれんやで」と、土地とともに歩んできたワイナリーの歴史をユーモア交じりに紹介してくれたのが印象的でした。
特に、「たこシャン」と名付けられたスパークリングワインの話。地元の名物であるたこ焼きに合うようにつくられたこのワインは、瓶内二次発酵(瓶の中で再び発酵させて炭酸を自然に閉じ込める製法)で作られています。
その味わいに関東人の私が感動したことを伝えると、「そら、うれしいわ」と笑顔で応えてくれました。このワインには、柏原という地域への愛情と、ユーモアあふれる大阪らしさが詰まっています。
柏原の未来を見据えたワインづくり
帰り際に偶然お会いした4代目の高井利洋さんには、「ほんま、ようきはったな~」、「日本ワインを専門で売る店なんて、ホンマ変わっとる」と、気さくに声をかけていただいたのが心に残っています。
大阪府は全国でも有数のぶどう産地であり、昭和初期には生産量が全国1位だった歴史もあります。その伝統を誇りに、今後は柏原市内の合名山をシンボルに据えた畑の拡大を目指しているとのこと。
地域の自然や文化と協調し、未来へ向けた挑戦を続けるカタシモワイナリーの姿勢を感じ取れた訪問でした。