
標高が生み出す、特別な果実
長野県小諸市。東信地区と呼ばれるこの場所は、内陸性の冷涼な気候と、降り注ぐ太陽の光が、ブドウ栽培に最適な土地です。
私が訪れたのは2023年の夏。肌を刺すような日差しが、標高の高さを物語っていました。千曲川沿いを走る国道から少し入った場所に、グラン・ミュールの畑はあります。こじんまりとした畑ながらも、斜面に整然と並ぶブドウ樹は美しく、その向こうには小諸の町並みが広がっていました。
金融マンから転身、異色の醸造家
グラン・ミュールの園主、川口さんは、元金融マンという異色の経歴の持ち主です。イギリスなど海外駐在の経験もあり、美味しいワインを数多く嗜んできた川口さん。
ヨーロッパの食卓にワインが寄り添う文化に感銘を受け、自らもそのようなワイン造りを目指しています。「グラン・ミュール」とは、フランス語で「熟した種粒」を意味します。美味しいワインは、熟したブドウから生まれる。川口さんのワイン造りへの情熱が、その名前に込められています。
テロワールを映し出す、奥深い味わい
シャルドネ、カベルネソーヴィニヨン、メルロー、ピノノワールなど、様々な品種のブドウを栽培する川口さん。中でも特に力を入れているのが、スイス原産の「シャスラ」というブドウ品種です。
「和食に最も合うブドウ品種のはシャスラだ」と語る川口さんは、シャスラ100%のワイン造りを目指し、年々シャスラの樹を増やしているそうです。
このシャスラとピノグリを使ったスパークリングワイン「奴隷の分け前」は、当店でも特に人気の商品です。クリアな味わいながらも、しっかりとした果実味を感じられるのが魅力です。
「畑仕事は本当に大変で、自分が『畑の奴隷』のように感じる。だから、畑からいただくものは『分け前』なのだ」と川口さんは語ります。
また、川口さんのつくる赤ワインには「晃」、白ワインには「薫」と、それぞれお子さんの名前が付けられています。
「長野に移住した地から、『父ちゃんはしっかりやってるよ』という家族へのメッセージを込めている」と川口さん。その言葉には、家族への愛情と、ワイン造りへの情熱が感じられます。


家族への想いを、未来へ繋ぐ
言葉数は少ないですが、黙々と丁寧な畑作業を日々重ね、ロマンチックな想いをワインに乗せて送ってくださる川口さん。
川口さんのワインは、ブドウ果皮に付着した野生の酵母の力で発酵させる、自然な製法で造られています。ブドウの果実味がしっかりと感じられるその味わいは、川口さんの実直な人柄と、ワイン造りへの情熱を物語っているようです。ぜひ一度、グラン・ミュールのワインを味わってみてください。