
理系脳と情熱が生む感動の一杯
新潟駅からJR越後線に乗り、終点・内野駅へ。そこから車で15分ほど走ると、日本海沿いの角田浜に、カーブドッチを中心とする「新潟ワインコースト」が広がります。
その入り口近くに位置するのが、小林さんご夫婦とスタッフ一人で営む小さなワイナリー、ドメーヌショオです。ワイナリー名の「ショオ」は、小林の「小(ショウ)」に由来。目の前に広がる畑と、風を防ぐ防砂林が織りなす風景のなかで、この地ならではのワイン造りが行われています。


理系エリートであり、情熱の探求者
出迎えてくれた小林さんは、鎌倉にゆかりがあり、当日、訪れた私と鎌倉の話で盛り上がりました。
その経歴は実にユニーク。ドバイで生まれ育ち、日本へ帰国後、筑波大学で生物資源学を学び、ビジネスコンサルタント会社・アクセンチュアに勤務。その後、カーブドッチでの研修を経て2011年にワイナリーを設立しました。
話しぶりから感じたのは、圧倒的な知識量と探求心の深さ。例えばワイン造りに関わる微生物の働きや醗酵のメカニズムにとどまらず、コロナワクチンの仕組みまで、分子レベルで理解しようとするほどの知的好奇心を持っています。
現在も高校の物理や数学を学び直していると聞き、その飽くなき探究心に驚かされました。
「楽しい」からこそ挑戦し続ける
ワイン造りは決して楽な道ではありませんが、それでも小林さんは、この道を「楽しいから」選んだそうです。
「僕たちが生きてる世界は分からないことだらけなんです。物理化学では解明できていない事象がほとんど。だから楽しく生きよう、僕はそう思ってる。」
楽しさを感じるのは、畑の生態系が豊かになっていくこと。そこに生きる多様な微生物、ブドウが育ち、それがワインになっていく過程のすべてが、毎年新しい発見に満ちています。
そして、そのワインを飲む瞬間こそが、一番の楽しみ。知識を深めながらも、「楽しい」という感情を大切にする姿勢が、ワイン造りの根幹にあります。


つながり、その中心にあるワイン
フランス・ボルドーの大規模ワイナリーがデータ分析を駆使して醸造するのとは対照的に、新潟・角田浜の風土を生かしながら、独自のベストなワイン造りを追求しています。
畑では基本的に除草剤を使わず、減農薬で管理。醸造では野生酵母の力を生かし、ナチュラルな発酵を待ちます。
「喉にひっかからず、心にひっかかる液体」というコンセプトのもとに造られるワインは、ブドウの個性を大切にしながらも、飲みやすく、気がつけば1本空いてしまうような魅力があります。ラベルは奥様がデザインし、ワインを手に取る人々に楽しさを届けています。
「お鮨屋さんに行って、大将にネタの保存法とか握り方とか酢の配合とか、細かいこと聞かないでしょ?『うまいっすねー!』って、それでいいじゃん。ワインも同じ。」
この言葉のとおり、理屈を超えて、人と人を繋げ、感動を生み出すワインがここにはあります。さあ、まずは一杯、楽しんでみてください!