北海道
弟子屈ワイナリー
香りの専門家がつくる、山幸のうまみワイン
火山がつくった風景
道東にある弟子屈町は、春がゆっくりやってくる町です。4月のはじめ、道端にはわずかに雪が残っていました。
ワイナリーからは、日本最大のカルデラ湖である屈斜路湖を一望できます。途中で立ち寄った硫黄山からは白い湯気が絶えず立ちのぼり、あたりには温泉の香りが漂っていました。
火山が作り出した大きな地形の中に、湖があり、森があり、人が暮らしている。目の前に広がる景色の、自然の大きさに圧倒されます。「こんな場所が日本にあったんだ」と、思わず見入ってしまいました。
香りで造る
弟子屈ワイナリーの代表の高木さんは、大学卒業後は調香師として働いていました。
「マロラクティック発酵が始まったな」そんなことも、まずは香りで判断するのだとか。発酵中のタンクから立ち上る香りを嗅ぐだけで、ワインの変化が分かるのだそうです。
高木さんならではのワインとの向き合い方です。
自然からのおすそ分け
屈斜路湖の近くにある弟子屈ワイナリーの畑は、ビシッときれいに整えられていました。一人で管理していると聞いて驚くほど。
畑を見ると、その人の性格が少し見える気がします。醸造所内も畑と同じく、きれいに整えられていました。
畑の周りにはキツネが住み、カラスが飛んでいます。
畑を荒らしたり、ブドウの実を食べたりしないのだろうか。 そう思って尋ねると、 「ムクドリが実を食べていると、カラスが近くに来て鳴いて教えてくれたりするんです」ブドウ農家の天敵というイメージとは、ずいぶん違います。
「キツネも、子どもが生まれたら見せに来てくれたり、たまに寄ってきてはこっちを見ながらブドウをかじる真似をしてみたりとかするんですよ」
キツネは敵じゃない。カラスも敵じゃない。
同じ場所で暮らしている住人、そんな感覚なのかもしれません。
高木さんは、この畑で農薬を使わずにブドウを育てています。
人が主役なのではなく、動物も植物も同じ場所で暮らしている。その中で、自然の恵みを少し分けてもらっている。
現代の農業というより、昔の里山の風景を見ているようでした。
山幸が映す、弟子屈の風景
弟子屈ワイナリーが力を入れているブドウが、
北海道生まれの「山幸」です。
野生酵母でゆっくりと発酵させたワインは、山幸特有の酸だけでなく、じわじわと広がる果実味とうまみ、心地よいキレがあります。弟子屈の景色のように、力強さがありながら、どこか伸びやかな味わいです。
香りから広がる可能性
高木さんは母校と連携しながら、ワインの香りについての研究も続けています。「香りはすべて化合物で説明できる」そう話す高木さんからは、研究者の一面がのぞきます。
キツネやカラスが暮らす土地で営みを続けながら、農薬を使わずにブドウを育てる。
一方で、香りを科学的に分析し、新しい可能性を探り続ける。
自然と科学、高木さんはそのどちらか一方ではなく、両方の視点を持っている人でした。
自然とともに暮らすこと。
自分たちもまた、その分け前をいただいて生きていること。
弟子屈ワイナリーのワインは、そんな風景をそっと思い出させてくれます。