医師からワインメーカーへ、星野さんの挑戦
2024年7月、長野県東御市にあるスターダストヴィンヤードを訪れました。畑で出迎えてくれたのは、穏やかな笑顔が印象的な星野さん。1.4haの耕作放棄地を活用し、ワイン用ぶどうを栽培しています。
異色ともいえる経歴が持ち主なのです。星野さんは、もともと京都大学の病院で働いていた医師。現在もJA長野連に勤めながら、ワインづくりに情熱を注いでいます。
ワインに魅せられ、長野への移住を決意
星野さんのワイン造りへの道は、学会で訪れたナパ・ヴァレーのワイナリー巡りがきっかけでした。つくり手たちの熱い思いに触れ、ワインがまるで芸術品のように、その年ごとの個性を持つことに深く感銘を受けたといいます。
「ワインも人間と同じで、若いものは果実味にあふれ、熟成すると妖艶な深みを増す。どの時期にも、その瞬間にしかない魅力がある」と。
病院では管理職になり、現場を離れることが増えたタイミングで「やはり自分は現場にいたい」との思いが募り、2013年に大学病院を退職。京都の丹波ワインでぶどう栽培の研修を受けた後、長野県への移住を決意しました。
信州うえだファームでの農業研修では、ワイン用ぶどうの栽培に特化した研修が可能で、2年間の農業全般の研修期間内に将来の農地を決め、苗木の植え付けを開始できるという条件がありました。この研修で実践的な農業技術を学びながら、自身の畑の準備を進めたのです。
その後、千曲川ワインアカデミーでもワインづくりの知識を深め、2018年には、「スターダストヴィンヤード」を立ち上げ、初ヴィンテージを生み出しました。
医療と農業の共通点、微生物と生きる
星野さんは、ぶどう栽培、ワイン造りと医療の共通点として「微生物との向き合い方」を挙げます。人の健康を守るために、ウイルスや細菌に対する抗ウイルス薬や抗菌薬が使われますが、その効果は限定的であり、特にウイルスは根絶が極めて困難です。
過剰な抗菌薬の使用は耐性菌の問題を引き起こすため、医療の現場では早期発見(検査や診断)、予防(換気、マスク、手洗い、消毒)、適切な治療、蔓延防止といった対策が重要とされます。
実は、ブドウ栽培も同じ原理で成り立っています。定期的な園地の巡回による病気の早期発見、草刈りや整枝、除葉、雨避けによる感染予防、定期的な防除による予防措置、病枝の除去・焼却による蔓延防止など、一連の管理が健康なブドウを育てる鍵となるのです。
また、単に微生物と戦うのではなく、共存することの大切さも強調します。ワイン造りでは、土壌中の微生物が有機物を分解してブドウの養分となり、発酵では酵母がアルコールを生み出します。
「微生物を敵とするのではなく、良いバランスを保ちながら共存していくことが重要」と語る星野さんの言葉には、医師としての視点が色濃く表れています。
千曲川ワインバレーで輝く個性
スターダストヴィンヤードでは、欧州系品種を中心に栽培し、サンジョヴェーゼ、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドといった赤品種、ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、ピノ・ムニエ、ソーヴィニヨン・ブラン、ルーサンヌといった白品種を混醸しています。
それぞれの品種の個性を生かしながら、調和の取れた穏やかで優しい味わいのワインを生み出しています。
当初、ご家族からの反対もあったものの、ワイン造りへの強い情熱でその壁を乗り越えてきた星野さん。医師でありながらワインメーカーとしても活躍する星野さんの姿勢には、患者と同様に、畑の土壌を見つめ、ブドウの声を聞くような丁寧な仕事ぶりが感じられます。