岩手県
南部美人
岩手の風土と人情が醸す酒
南部杜氏の技と伝統を受け継ぐ、岩手の老舗蔵
1月の岩手・二戸は、1年で最も寒さが厳しい時期。車を降りると、刺さるように冷たい空気に迎えられます。気温は日によってマイナス10℃近くまで下がることもあるそうで、白い蔵は白い雪ですっぽりと覆われていました。
この厳しい寒さは、酒造りにおいてはむしろ味方だそうで、吟醸酒をじっくり育てるのに理想的な環境なのだとか。
この地で、日本三大杜氏の一角である南部杜氏の技と伝統を受け継ぎ、125年にわたって酒造りを続けてきた、岩手を代表する老舗蔵が
「南部美人」です。
老舗でありながら開かれた蔵
蔵には見学コースが整備されていて、観光地のような雰囲気があります。老舗酒蔵というとどこか敷居の高さを感じますが、これまで訪れたどの蔵とも違う、オープンな印象にびっくりしました。
お酒のラインナップも実に多彩です。吟醸酒や特別純米酒、スパークリングにとどまらず、リキュールやジンまで。迷ってしまいそうなほど、さまざまな味わいやスタイルのお酒が揃っていて、どんな人も自分に合う1本を見つけられそうです。
「温故知新」の合言葉通り、伝統を背負いつつも、軽やさ、親しみやすさがある。「みんなに楽しんでほしい」、そんな懐の広さを感じます。
「やってみよう」の精神が生む多彩な酒
この自由で幅広いラインナップの背景には、社長の人柄があるのだそうです。社長が「やってみよう!」と言えば、現場が全力で応える。そんなスタイルで、次々と新しい取り組みが形になってきたのだとか。
伝統やブランドに安住するのではなく、思いついたら挑戦してみる。その姿勢が、今の多彩な顔ぶれにつながっているようです。
人を想い、土地を想う酒蔵
南部美人の酒造りでは、酒米はできる限り岩手のものを使います。主に使っているのは、地元で栽培された「吟ぎんが」や「ぎんおとめ」。
かつて、寒すぎて米作りには向かないと言われた土地で、県や酒造組合、工業技術センターといった地元機関が協力して生まれた、岩手オリジナルの酒米です。その一粒一粒に、この土地の努力と誇りが宿っています。
さらに、南部美人には、若い杜氏が一人で任されて造った酒もあります。そのラベルは杜氏の小さな娘さんが描いたものなのだとか。家族の温かさを感じる、ほっこりするエピソードです。
社長の「やってみよう」精神は、新しい酒作りだけに向けられているわけではないように感じました。
地域を想い、人を思う。この蔵の根底にはそうした温かみがあって、それが魅力なのだと思います。
大きな蔵なのにどこか人情味を感じる。その理由がわかった気がしました。
ネオンサインに込められた想い
蔵の一角には、ひときわ目を引く「南」のネオンサインがあります。かつて盛岡の駅ビルに掲げられていた看板の一部で、取り壊しの際に譲り受けたものだそうです。
現在は試飲スペースとして使われていますが、もっと人が集い、自由に語らい、酒を楽しめる場にしていきたい――そんな思いが込められた場所です。
これからも、「やってみよう」という一言から、新しい一本が生まれていくのでしょう。私たちも、その一本を誰かに手渡すお手伝いをしていけたら、そう思います。