古きよき景色を訪ねて。うどんの町の老舗酒蔵
秋田空港から車を走らせること、1時間。
蔵へと向かう道のりには、里山とゆるやかに続く段々畑、そしてその周りをふちどるようにある低い山々。日本昔話を思わせる風景に、日本の原風景の美しさを感じます。降っていた雨もいつの間にかやみ、うっすら立ちのぼる霧が景色によく映えます。
稲庭うどん発祥の地、秋田県の湯沢市稲庭町から車で15分ほどの、古い建物が立ち並ぶ商店街に、木村酒造はあります。
400年の息づかいを感じる蔵
木村酒造は、江戸時代の始まりとともに400年以上続く蔵。一歩足を踏み入れると、長い歴史がそのまま閉じ込められているような、しんとした空気が広がっていました。数百年生きる大樹の前に立ったときのような、安心感がありながらもすっと背筋が伸びる、そんな感覚。
入ってすぐの場所には、かつて酒米を蒸していた釜場の跡。高い天井に太い梁、天窓から差し込むやわらかな光。釜場を囲む斗瓶に光が反射する光景が印象的で、蒸気の立ち上る中作業する、当時の人々の姿が目に浮かぶようでした。
古いものがただそのまま残っているのではなく、当時の空気や気配はそのままに、時が紡がれていっている感じに、この場所で脈々と受け継がれてきた酒造りの重みを、肌で感じます。
雪国の暮らしに根付いた、飲み続けられる酒
小野小町ゆかりの地・湯沢にちなんで名付けられた、蔵の代表銘柄「福小町」。その味わいには、この土地の気候や食文化が息づいているのだと教えてもらいました。寒さの厳しい地で造られた酒は、濃く、ほんのり甘みがあるものが多く、それは「しょっぱいものが多い食文化」とともに育まれてきたからだそう。
福小町にも、そんな東北の酒らしいやわらかな余韻があります。気づけば杯が進んでしまうようなやわらかさ、そして食事の味をさりげなく引き立てながら長く寄り添ってくれるところも、このお酒の魅力です。
じゃんには、こうした飲み続けられる、食中酒として楽しめるタイプのお酒が多いのですが、福小町もそこにすっとなじむ一本。ゆったりと楽しんでほしいお酒です。
伝統を胸に、時代とともに歩む酒造り
この地域にはかつて 22 の酒蔵があったそうですが、現在も残っているのは木村酒造を含め、わずか 4 蔵。
「伝統や手作業を大切にしながらも、新しい技術や考え方も取り入れてきた」と聞いて、正直驚きました。歴史ある蔵の佇まいからは想像できなかったからです。でも、時代や飲み手の変化に耳を傾けその声を酒づくりに映してきた、そうした受け止める姿勢が、木村酒造が今日まで続いてきた理由なのだろうな、と感じました。
そして、作る酒に変化があっても蔵のスピリットは揺るがず、長い時間をかけて蔵に染み込んだ思いが、作り手たちに自然に受け継がれ、共有されているように思いました。
建屋ももちろんですが、蔵の雰囲気にも守っていきたい古き良き日本の美しさがあり、「いつまでもあってほしい」そんな思いが湧き上がってくる、酒蔵さんでした。