山形・丘の上のワイナリー
山形県上山市。
眼下には、朝日に照らされた美しいブドウ畑。その先には家々、さらに遠くには幾重にも山が連なる景色が広がります。空の広さに包まれるような開放感があり、とても気持ちのいい場所です。
そんな美しい風景の中にあるのが「アグリクール」。木のぬくもりが感じられる素朴な建物が、周囲の自然と溶け合うように佇んでいます。
8月初旬、爽やかな夏の風にブドウの葉が揺れる畑を、オーナーの片寄さんが案内してくださいました。
農業への想い
片寄さんがワインの世界に足を踏み入れたのは学生時代。本格的に学ぶためにフランス・ブルゴーニュへ渡って6年間ワインづくりを学び、岡山の「domaine tettta(ドメーヌテッタ)」では醸造責任者を務めました。そして2022年春、「次の世代に豊かな環境を残したい」「命を支える農業を守りたい」—そんな思いに導かれ、上山でのワインづくりをスタートさせます。
「アグリクール」という名は、「農業(agriculture)」とフランス語の「心(cœur)」を合わせたもの。その名が示すとおり、片寄さんの原点には農業への深い想いがあります。その根っこにあるのは、フランスの生活での「農業が人の命を支えている」という実感。大変な作業もたくさんあるけれど、自然の中で植物に触れ、命を育てる時間は、何より豊かな時間だといいます。
「農業は気持ちが良くて、人の命を守る活動だと思っている。そこを大事に、楽しんでやっています」。はにかんだ笑顔とは対照的に、迷いのないその言葉はまっすぐ胸に届きました。
片寄さんのワインづくりの軸にあるのは、農業への敬意と誰かの暮らしにつながっていく喜び。自分だけで完結するのではなく、その輪を少しずつ広げていきたいという思いが片寄さんの原動力になっているのだと感じました。
日本に根ざしたブドウでつくる日本ワイン
「ワインは、その国の文化や暮らしを映すもの」。これも片寄さんがフランスでの経験の中で抱くようになった思いのひとつです。
日本で造るワインには日本に根ざしたブドウを。そんな考えから、アグリクールのワインには、デラウェアやマスカット・ベーリーA、北醇など、日本で長く親しまれてきた品種が使われています。
ラベルもまた、アグリクールのワインを彩る大切な要素です。完成したワインをデザイナーが飲み、その味わいからインスピレーションを得て描かれたラベルたちは、どれも個性的で物語を感じさせます。どんなワインなんだろうと想像しながら眺めたり、グラスを傾けながら絵と味わいを重ねてみたり——手に取ったときの楽しみが広がりそうです。
人や土地との結びつきを大切にし、自分にできる形で誰かの表現や想いを後押しする。そしてその輪を広げていく。そんなあたたかいやりとりも、ワインづくりの一部として自然とあるのが素敵だなと思いました。
問い続け、行動し、世界を変える
環境への配慮も、アグリクールが大切にしているテーマのひとつ。ラベルは通常は表と裏に2枚貼るところを表に1枚だけに。梱包方法も工夫し、輸送時の積載効率を高めるなど、細部にまで心を配りながら、従来のやり方に囚われない工夫を重ねています。
「自分ひとりがやっても意味はないかもしれない。でも、世界中の人が少しずつ行動すれば、確実に変わる。だからこそ、自分が正しいと思うことをやっていきたい」。その片寄さんの言葉には、日々思考を重ね、それをかたちにしているからこその、重みを感じます。
将来的には、醸造設備を地域に開き、新しく農業を始めたい人たちの受け皿にもなれたら——そんな構想もあるそうです。アグリクールの名に込められた「農業」と「心」という想いは、すでにこの地に根を張り、確かに広がりはじめています。アグリクール、そして片寄さんを中心に、これから上山の地で起こるムーブメントが楽しみです。