北海道
オサワイナリー
ワインのある時間を、丁寧につくる
岩だらけの畑が生む、
ミネラリーなワイン
畑に足を踏み入れると、ブドウの木よりまず足元に目がいきます。ごろごろと転がる岩は、横に置いたヘルメットが小さく見えてしまうほどの大きさです。
北海道・小樽市にあるこの畑は、1000年前、海底火山が隆起してできた場所なのだそうです。土というより、ほとんど岩場。ここまで岩肌がむき出しになる場所は、日本でもなかなかないのだとか。
水はけがよく、潮風が抜け、日当たりもいい。「人にとってはめちゃくちゃ厳しいけど、ブドウにはすごくいい環境です」と、オーナーの長さん。この土地だからこそ、オサワイナリー特有のミネラリーな味わいが生まれるのだそうです。
私がオサワイナリーのワインに初めて出会ったのは、お寿司のイベントを開いたとき。魚介、特に貝と合わせたときのおいしさに、「こんなワインがあるんだ」と驚いたのを覚えています。
ボサノバが流れる石蔵
畑を見せていただいた後は、車で10分ほど走り、ワイナリーへ。石造りの建物は、落ち着いた空気をまとったスタイリッシュな雰囲気で、作業場にはボサノバが流れていました。
この石蔵も火山の噴火物で作られていて、110年前に建てられたものだそうです。偶然出会い、「ここだ!」とビビッときて決めたのだとか。
ご本人曰く、「直感で動いちゃうタイプ」なのだそうです。
「飲む時間」まで作る
長さんご夫婦は、二人ともソムリエ資格を持ち、レストランやワインショップなど、飲む人の声が近い場所で働いてきた経験が豊富。だからなのか、オサワイナリーのワインには「飲む時のこと」が考え抜かれている感じがあります。
「日本の食卓って、すごくいろんなものが並ぶじゃないですか。居酒屋でも、刺身の隣にローストビーフがあったり、餃子があったり。だから、この料理にこのワイン、じゃなくて、日本のテーブルワインとしてどんな料理にも寄り添えるように、というのはすごく意識していますね」。
長さんの話を聞いていると、「ワインのある光景」をいつも思い描いている人なのだろうなと感じます。どんな場所で、どんな料理と並び、どんなふうに会話が弾むのか。そんな時間ごとイメージしながら、ワインを作っているような気がします。
ワインの名前にも、そんな考え方が表れています。「マテーニロゼ」の「マテーニ」には、「真心こめて、丁寧に」という意味が込められているのだそうです。難しい知識がなくても、感覚で楽しめるように。そんなふうに考えられています。
32貫のお寿司を食べて作ったワイン
オサワイナリーの代表的なワインのひとつは、「お寿司に合わせる」という発想から生まれています。
驚いたのは、その作り込み方。3軒のお寿司屋さんのお寿司を32貫も食べながら、ブレンド比率の異なるワインを何種類も飲み比べ、評価していくのだそうです。
「お寿司に合うワイン」を理屈だけではなく、
実際に寿司と合わせて飲んで考えていく。そんな方法を見たのは初めてです。
なぜお寿司?
なぜお寿司なのか?と聞くと、「せっかく小樽に来たならお寿司を食べてほしい。だから、お寿司に合うものを、と考えた」と話してくれました。
長さんがワインに惹かれたのは、90年代のイタリアブームがきっかけ。「イタリアワインって、土地によって全然違う。その土地のブドウで作ったワインを、その土地の食べ物に合わせる。そこが好きなんです」
「お寿司に合うワイン」という発想も、白のみを作っているのも、そんな考え方が根っこにあります 。変わっているねと言われることも多いそうですが、長さんにとっては自然な選択だったのだそうです。
世界のワイン文化を見ながら、日本で、小樽で作るならどうあるべきか。そのマクロとミクロを行き来する感覚が、長さんのすごいところです。
最後に、ワイナリーの仕事で一番しんどいことは、と尋ねると…「栽培も醸造も、どの作業も大変。でも、ブレンドや名付け、ラベルみたいに、飲み手に近くなるところほど、時間も気も遣いますね」と話してくれました。「飲んでもらうまでがワイン作り」という言葉は、オサワイナリーのワインそのものだなと感じました。