
食べるブドウからもワインができる?!生食用ブドウのワイン
世界中で栽培されているブドウは、約1,500種類あると言われています。ワインを造る際にはワイン専用の品種が使われるのが一般的ですが、実は私たちが普段食べている「生食用」のブドウからもワインが造られることがあるのをご存じでしょうか?生食用ブドウの栽培が盛んな日本ではこうした品種を使ったワイン造りが長く行われており、日本ワインの個性として、世界から注目される存在になっています。今回はそんな「食べるブドウ」から生まれるワインの魅力をご紹介します。
目次
ワイン用ブドウと生食用ブドウは違う
ワインはブドウから造られるお酒ですが、「ワインに使われるブドウ(ワイン用ブドウ)」と「私たちが普段そのまま食べているブドウ(生食用ブドウ)」は、実は品種も特徴も大きく異なります。
生食用ブドウの特徴
生食用ブドウとして知られる巨峰やピオーネ、シャインマスカットなどは、手軽においしく食べられることを目的に、見た目の美しさや食べやすさを重視していて作られており、以下のような特徴を持っています。
- 大粒で食べ応えがある
- 形が揃っていて見た目が美しい
- ほどよい甘さと穏やかな酸味
- 果汁が多くてジューシー
- 果皮が薄く、種がないので丸ごと食べやすい
ワイン用ブドウの特徴
ワイン造りに使われるワイン用ブドウは、ワインにすることを前提に最適化された品種です。生食用ブドウとは基準が異なり、発酵や熟成に適し、ワインの風味を豊かにするための特徴を備えています。赤ワインでは、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、シラー、白ワインでは、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランが代表的な品種です。
- 小粒で果皮が厚い(果皮に香り・色・渋みの成分が多く含まれる)
- 糖度が高い(アルコールを生成するために重要)
- 酸度が高め(ワインのフレッシュさにつながる)
- 種があることが前提(味わいや渋みの要素になる)
このように、ワイン用ブドウと生食用ブドウは、育てられる目的や求められる特性が異なるため、見た目や味わいにもはっきりとした違いが表れます。どちらも、それぞれの用途に合わせて個性が磨かれてきました。
生食用は「ほどよい甘さ」、ワイン用は「糖度が高い」のはなぜ?
そのまま食べるなら甘いほどおいしいのでは?と思う方もいるかもしれません。甘みはブドウの魅力のひとつですが、生食用のブドウは甘すぎるとくどさを感じて食べ飽きてしまうため、「食べやすさ」を重視すると、適度な甘さと酸味のバランスが大切とされています。
一方、ワイン用ブドウにとって糖度は、アルコールを生み出すための重要な要素です。ワインは、ブドウに含まれる糖分が酵母の働きによってアルコールと二酸化炭素に分解されることで造られます。糖度が十分でないと発酵はうまく進まず、アルコール度数も上がりません。そのため、ワイン用のブドウには高い糖度が求められます。(詳しくは:ワインのアルコール度数はどう決まる? )
糖度の指標となる「Brix(ブリックス)値」は、数値が高いほど甘いことを示します。生食用ブドウは一般に18〜20度程度ですが、アルコール度数10~13%のワインに仕上げるためには、20〜25度程度が必要とされています。「食べておいしい甘さ」と「アルコール発酵をしっかりさせるのに必要な糖度」は異なるということです。
ちなみに、ワインの醸造では糖分はアルコールに変換されるため、原料のブドウの糖度が高いからといって甘いワインになるとは限りません。糖度の高いブドウから造られる辛口ワインも多く存在します。
生食用ブドウを使ったワインの歴史
日本でワイン造りが本格化した明治時代、ワイン用のヨーロッパ系品種は気候や技術の面で栽培が難しく、当時すでに広く栽培されていたデラウェアや甲州などの生食用ブドウが原料として使われていました。これらの品種で造られたワインは、本場ヨーロッパのものとは異なる風味のためワイン愛好家には評価されにくく、海外でも「フォクシーフレーバー」と呼ばれる生食用品種特有の甘く野性的な香りが受け入れられず、品質が劣るとみなされることもありました。
しかし、近年ではブドウ栽培やワイン醸造技術の向上により、生食用品種でも高品質なワインが造られるようになりました。軽やかでフルーティーな味わいは日本人の味覚にもよく合い、生食用品種ならではの個性として再評価が進んでいます。世界的にも日本ワインへの関心は高まりつつあり、かつてはワイン用ブドウの代用品とされていたこれらの品種も、今では日本らしさを表現する魅力的な原料として注目されています。その個性的な風味や香りは、ワイン愛好家にとっても新たな楽しみとなっています。
生食用品種で造られたおすすめワイン① デラウェア
小粒で食べやすい種なしブドウのデラウェア。昭和の食卓や学校給食でもおなじみで「昔よく食べたなあ」という方も多いのではないでしょうか。かつては大阪府の名産品としても知られましたが、都市化の影響や大粒ブドウ人気に押されて栽培量が減少。しかし、ワイン用ブドウとしてのポテンシャルが再評価され、再び注目が集まっています。酸味の強い時期に早摘みした、通称「青デラ」を使ったフレッシュなスタイルのワインも人気です。
デラウェアのワインは、みずみずしい果実味と爽やかな酸味が特徴。柑橘系やマスカットのような軽やかな香りが広がり、飲みやすいものが多く揃っています。辛口でドライなタイプは食事にも合わせやすく、特におすすめです。

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生食用品種で造られたおすすめワイン② 巨峰
甘くて大粒、濃厚な味わいが魅力の巨峰は、「ブドウの王様」とも称される高級品種。贈答品としても人気が高く、日本を代表する生食用ブドウのひとつです。日本で交配・作出された品種で、山梨県が生産量日本一。生食・ワイン用を含め、国内で最も多く栽培されている品種です。糖度が高く果汁も豊かで、ワインにしてもその魅力がしっかりと生きます。
巨峰を使ったワインは、ジューシーで濃厚な果実味と艶やかな芳香が特徴。酸味とのバランスも良く、口当たりはやわらかです。マスカットのような甘く華やかな風味もほんのりと感じられ、リッチな味わいが広がります。テーブルを華やかにしてくれる、美しい赤紫色の色調も巨峰を使ったワインならではの魅力です。

巨峰らしいフルーティーな香りにピオーネのフレッシュな酸が全体を引き締め、しっかりとした炭酸が爽快なキレの微発泡ワイン
生食用品種で造られたおすすめワイン③ ナイアガラ
香り高く、マスカットのような甘く爽やかな香りと、やわらかくジューシーな果肉を持つナイアガラ。アメリカ生まれの品種ですが、寒冷地でも育てやすいため、日本では北海道や東北地方を中心に栽培されています。
ナイアガラを使用したワインは、淡い色合いと、柑橘や白桃を思わせる華やかなアロマが特徴です。爽やかな酸味とやさしい甘さのバランスが心地よく、口いっぱいに広がるジューシーな果実味も魅力のひとつ。冷やして楽しむのにぴったりな、軽やかで飲みやすい白ワインとして人気があります。デザートワインや甘口タイプで親しまれることが多いナイアガラですが、当店では辛口タイプを取り扱っています。ドライな味わいとすっきりとした飲み口が楽しめ、食事と合わせて楽しみたい方にもおすすめです。
まだまだある!生食用ブドウを使ったユニークな日本ワイン
上記で紹介した3つの代表的な品種(デラウェア・巨峰・ナイアガラ)以外にも、日本ではさまざまな生食用ブドウから個性豊かなワインが造られています。
たとえば、山梨県勝沼でしか栽培されていない幻の黒ブドウ「アジロンダック」。その独特な香りを生かしたワインは、ブルーベリーやカシスを思わせる香りに、マスカットや木苺のような華やかな風味が感じられます。濃厚な果実感の中に、やさしく広がる甘い香りが特徴です。
また、「日本ワインブドウの父」と呼ばれる川上善兵衛が広めた大粒の黒ブドウ「キャンベル・アーリー」は、桃や苺を思わせる甘い香りとバランスの良い酸味、美しい色味で、赤ワインやロゼワインに使われています。
さらに、約8割が青森県で生産される寒冷地向きの品種「スチューベン」は、イチゴやラズベリーに例えられる香りとキリっとした酸味が特徴で、フルーティーな甘口ワインとして親しまれています。
このように、日本各地の生食用品種を使ったワインには、それぞれの地域の風土や作り手の独自のアプローチが反映されており、海外より多種多様な「日本ならでは」の新たな味わいが体験できます。気になる品種のワインを見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。
「日本ワイン店 じゃん」では、全国のつくり手を訪問し厳選した100種類以上の日本ワインを取り扱っています。角打ち営業では、旬の食材と和の調味料を使った料理とのマリアージュもお楽しみ頂けます。日本中を旅するようにこのワインからあのワインへ、人に教えたくなるマリアージュの発見と、共感と感動を分かち合う仲間が出来るはず!ぜひお気軽にお越しください。



